放射能泉について

日本にはラジウム、ラドン、トロンなどの名前をつけて放射能の効用をうたう放射能泉や保養所がたくさんあります。これらは温泉水中にそれぞれ主としてラジウムやラドンが溶けているものですが、ラジウム温泉を称する有馬温泉(兵庫県)、ラドン温泉を称する増富温泉(山梨県)、三朝温泉(鳥取県)が有名です。世界でも、たとえばオーストリア・バードガスタイン市のような温泉保養所・サナトリウムでは、医師の指示に従って入浴するラドン温泉があります。このような例を見ると、放射能泉の薬効は経験的に知られているように思われます。

しかし数ある放射能泉の中には、本当に医学的な効果があるのかどうか明らかでない場合も実は少なくありません。実際に放射線の量を測ると、医学的な効果を期待できるほどの放射線は無いこともあるようです。そのような場合は、単に温泉だけの効用であるのかもしれません。それでも、放射能泉が有効であると思われることが多いのには、 プラシーボ効果 が働いているのだという説があります。プラシーボ効果とは、医学的に効果が無いことが明らかな薬剤あるいは偽薬でも、薬効があると思って摂取すると、本当に効果が出てくるという現象です。慢性疾患や精神状態に影響を受けやすい疾患で、プラシーボ効果がよく現れることがわかっており、心理効果・暗示作用が人間の身体の状態に重要な影響を与えることを証明しています。放射能泉が身体によいと思うと、心身がその思いこみに沿って活性化するのでしょう。「いわしの頭(カシラ)も信心から」という日本のことわざは、プラシーボ効果のことを云っています。

放射能泉の効用は経験的に知られている側面もありつつ、一方むやみにその効用を主張出来ない場合もあると考えるべきです。

とは云え、実際のところ放射能泉がどれだけの医学的な効果があるのかを煎じ詰めるよりも、プラシーボ効果も含みで楽しく温泉を楽しむ、、、という態度が一般的かつ実用的な姿勢です。