生まれたばかりの頃の地球には今よりも多くの放射能があったことは既にお話しました。その頃存在していた原子は、化学反応によって小さな分子になり、小さな分子から蛋白質へと物質の階層をさかのぼって進化してきて、とうとう生物が生まれたと考えられています。

蛋白質のような生命に関係する分子が合成されるきっかけを作ったのは放射線による化学作用だったとも云われています。

地球に生命が生まれた頃は放射能はずいぶん弱くなっていたでしょう。しかし、それでもまだ存在していた放射線が染色体を攻撃して壊すことも頻繁に起こったでしょう。そのような染色体の破壊が起こっても、多くの場合なんの影響も現れません。DNAは、その一部が壊されても修復する能力がありますし、仮に異常が生じても個体の機能にまで及ばないようなようにと、保護作用もあって、放射線の攻撃に対して二重三重の防御機能が備わっているのです。

放射線照射に絶え間なくさらされている間に、非常にまれに、良い遺伝子形質が獲得されることもあったでしょう。そしてこれは生物の進化の原動力の一つであったと考えられています。放射線に対する防御機能そのものが、生物が放射線とつきあいつつ進化の道をたどる間に学習によって獲得されたとも考えられています。

まれには、修復がうまく働かないで、癌が発生するというような致命的な障害が起きる場合もあったと思われます。これは運命ともいうべきもので、避けるわけにはいきません。自然の放射線レベルを大きく超える放射線をあびた場合には、その生物が死ぬとか、奇形になるとかいう破滅的な結果に終わったでしょう。放射線に対する防御機能も、大量の放射線をあびるという異常事態には対処できません。

以上の説明にはいくつかの仮説が含まれています。今後科学的により深く解明されなければなりませんが、人間を含む 生物は、放射線と無関係に生きてきたのではなく、むしろ放射線の恩恵と害の両方をを受けて進化してきたし、現在も放射線と共存して生きている のだということは、疑いようの無いことなのです。

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