研究成果名

超高速GaAs系HEMT(High Electron Mobility Transistor)の
高エネルギー粒子線による損傷機構を世界で初めて解明

研究成果の概要

材料の異なる2種類のHEMTに1-MeV電子線、20-MeVα線及び220-MeVの炭素粒子を照射し、種々のバイアスにおけるドレイン電流の各放射線による変化を調べた。その結果、飽和領域ドレイン電流が減少し、実効移動度が低下することを見い出した。これらの原因はHEMTのドナー層とチャネル層に照射により導入された格子欠陥に関係する。 AlGaAs HEMTがInGaP HEMTより損傷が大きく、これが構成原子量の違いに関係していることも明らかにした。HEMTの電気的特性劣化としてのドレイン電流の変化から見積もった照射損傷が、はじき出し原子数やNIELとして概算できる結晶原子変位パラメータと等価であることを導き出したと同時に、InGaP/InGaAs HEMTが静止軌道で運用する人工衛星での利用に十分な耐放射線性を持つことを証明した。

研究成果の国民生活・経済への寄与の内容

最近の高度情報化社会あるいは急激な世界情勢の変化の中で,移動体とともに行動する人間に対する敏速な情報の伝達およびその所在の確認が不可欠となってきている。

衛星を利用した船舶、航空機、陸上移動体などの移動体を対象とした通信サービスは地上系に比べて種々の特徴を有している。衛星が静止軌道にある場合、電波は減衰を避けられない。その為に、GaAs系HEMT(High Electron Mobility Transistor)などの低雑音増幅器が必要となる。本研究は、耐環境強化デバイスに主眼を置き、この中でも高エネルギー粒子環境下において正常に動作する半導体デバイスの開発に必要な、基礎的資料を得ることを目標として行った。ここで、半導体デバイスの中でもHEMTを研究対象に取り上げたのは、これが高速動作で低消費電力であり、来るべき高度情報通信社会において主流になると考えられるためである。もし、HEMTが十分な耐環境特性を持っているのであれば、これを使用しているシステムの適用範囲が,格段に広がるものと期待される。

成果に関する国際的な評価

本研究に関する結果は以下の学術誌に掲載されている。

1) H.Ohyama, E. Simoen, S.Kuroda, C. Claeys, Y.Takami, T.Hakata and H.Sunaga, IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 45, No. 6, pp.2861-2866 (1998).

2) H.Ohyama, S.Kuroda, E. Simoen, C. Claeys, Y.Takami, T.hakata and H.Sunaga, Journal of the Korean Physical Society, Vol. 35, pp. 272-274 (1999).

3) T.Hakata, H.Ohyama, S.Kuroda, E. Simoen, C. Claeys, T.Kudou, Y.Takami and H.Sunaga, Physica B,Vol. 273-274, pp.1034-1036 (1999).

その他

原研施設利用共同研究。

(研究代表者:大山英典 熊本電波高専)