研究成果名

太陽風の元素組成を求めるための基礎実験
-10-15g/g以下の不純物を保証する事に成功

研究成果の概要

太陽風とは太陽表面から放出される荷電粒子であり、その元素組成は太陽の元素組成に近似的にに等しい。これまで太陽系の元素組成は隕石の化学分析値と太陽光球のスペクトル分析によって推定されてきたが、いずれも間接的な数値であり、直接組成を求める可能性が考えられてきた。太陽風の元素組成から、太陽の元素組成を求める試みがアメリカのカリフォルニア工科大学のD.Burnettを中心に計画され、NASAの援助のもとで具体化されてきている。著者はこの計画に海外からの研究協力者として参加している。
この計画は、太陽を周回する探査機を打ち上げ、約2年間太陽風を捕集し、地球に持ち帰って分析するというものである。探査機の打ち上げは2001年はじめに行われ、2003年夏には地球に帰還する予定である。
分析の対象は、元素組成と同位体組成であり、できるだけ多くの元素についてこれらの情報を得るための基礎検討が数年前から行われている。
本研究では、この計画の一環として、元素組成を求めるための基礎検討を行った。本探査計画では、元素組成を求めるための太陽風捕集板として金属ケイ素を採用した。これは、高純度の材質が得られるという点を考慮したものであるが、現実的にこの金属ケイ素捕集板を使って、どのような元素をどのくらいの精度でその組成を求めうるかを検討した。実験は、探査機に取り付けられる予定の単体ケイ素(金属)と同一材質のもの、約10グラムを日本原子力研究所3号炉で1サイクル(約500時間)中性子照射した。定量目的元素として希土類元素とセレンを選び、その担体を加えて放射化学的分離操作を行い、適当な測定形にした後、γ線スペクトルメトリを行い、定量値の算出をおこなった。γ線測定時のバックグラウンドを低くする目的で、金沢大学理学部低レベル放射能実験施設の測定装置を利用して測定したところ、特定のγ線ピークは検出されず、上限値としてセレンで10-15g/g、希土類元素のEu. Tbで10-16g/gの値が得られた。これらの値はこれまで元素分析で得られた分析値としては最も低い値であり、測定系も含めて元素分析法とし最も高感度な手法を確立することに成功した。この手法を用いれば、上記探査計画で地球の持ち帰られる太陽風を分析して最低20元素の定量値を得ることができる見込みである。

研究成果の国民生活・経済への寄与の内容

太陽風の元素組成から太陽系の元素組成が直接求まることに対する寄与については、行き着くところ、国民(この場合は日本に限定されない)全体の知的財産と言うことになろう。但し、上で述べていることはその準備段階として、素材の分析をすることにより、極限レベルの不純物の分析法を確立したという点であり、その点ではより具体的な寄与があり得る。例えば昨今の素材の高純度化に対して、その評価を与えることのできる分析法として機能することができる。放射化分析は他の分析法にはない、分析値に対する絶対的な信頼性があり、’極限的’レベルでの分析値の値付けに対して、唯一機能しうる方法である。

成果に関する国際的な評価

太陽風を捕集し、地球に持ち帰る計画は「genesis」ミッション計画として、アメリカNASAのディスカバリー計画に採択された。その段階で、いわゆるfeasibility試験をいろいろな角度から行う、いろいろなレベルでの評価を受けた。Genesisミッション計画がディスカバリー計画の一つに取り上げられた要因の一つに、ここで述べた素材の評価の結果、及び分析法の信頼性が大きく寄与したことは疑いない。なお、この評価は、この計画がアメリカの計画であり、従って主としてアメリカ国内のものであり、国際的な評価については、具体的に太陽風の分析が行われてから得られるものと期待される。現時点で得られている研究成果については、現在論文を作成中であり、国際誌に投稿を予定している。

その他

原研施設利用共同研究

(研究代表者:海老原充 東京都立大学)