研究成果名

高純度鉄標準物質中の微量・超微量元素のSI単位への
トレーサビリティーを初めて確保

研究成果の概要

鉄鋼の高清浄度化やクリーンスチール化が進展している今、精練技術の向上による不純物微量元素の含有量は、目覚ましく低減の一途をたどっている。一方、それに伴う微量元素の分析技術となると、今のところその要求に応じられるレベルにあるが、近い将来、新しい鉄鋼に見合うまでのレベルを分析できる新しい分析技術を開発しないと将来の鉄鋼生産に間に合わなくなってしまう。また、新しい鉄鋼生産の対象材料として、高純度鉄、スクラップ利用鉄、環境規制がある梱包材鉄等を想定したとき、これらの中の特定の微量・超微量元素を各分析技術により定量し、その技術の開発および評価を行なわなければならない。これらの分析技術の開発や評価のためには、SI単位にトレーサブルな信頼性高い国家鉄鋼認証標準物質を欠くことができない。

本研究では、現在日本鉄鋼連盟から頒布されている鉄鋼標準物質:高純度鉄(JSS001-4、JSS001-3、JSS003-4等)を機器中性子放射化分析、放射化学中性子放射化分析を行い、これら鉄鋼標準物質中の微量・超微量元素の定量を行なった。定量を試みた元素は54元素であったが、定量値を得た元素の数は10数元素で、サブppmからppmのレベルで定量できた。また、それ以外の元素は同様な濃度レベル以下の定量下限値を得ることができた。定量された元素のうち半数近くは、他の微量元素分析法(例えば、ICP-質量分析法等)を使用しても定量されない、本法により初めて分析された元素である。残りの元素については、他の微量元素分析法との分析結果と比較し、定量値の信頼性を確認・評価を行った。さらに、Mo、Ni、Coの3元素については、日本鉄鋼標準物質JSS001-4を放射化学的な化学操作を行い、世界で初めてサブppmレベルでの定量値を得ることができ、 他の微量元素分析法の開発の基準として位置づけ られている。

研究成果の国民生活・経済への寄与の内容

上述したように、鉄鋼材料を分析するうえで欠くことができない標準物質(分析でのものさし)、特に微量・超微量元素が認証されている高純度鉄標準物質中の10数元素を信頼性高く定量できたことは、将来の鉄鋼分野の新しい材料開発に大きな光明を照らし、わが国の生活を支えている鉄鋼分野の発展に大いに貢献することは疑いの無いことである。

成果に関する国際的な評価

本研究の成果は、科学技術庁科学技術振興調整費の知的基盤研究の一部に取り上げ、分析に必須な「基準分析法の研究」にもなり、その結果は、日本鉄鋼標準物質の信頼性の高さを国内に広めたばかりでなく、国家標準としても信頼性が高いことを世界中に広め、国家間での分析技術の評価に認証した標準物質が使用されるとともに、その開発した分析技術が利用されようとしている。

その他

立教炉利用共同研究

(研究代表者:平井昭司 武蔵工業大学)