UTNL-W-0002 Section 2.2

2. 研究活動
2.2.原子炉機器工学研究部門


(1) 構成
教授       宮  健三
助教授      上坂  充
助手       吉田 義勝
研究員      周  又和
大学院生
 博士課程 3年 武田 信和、 橘田 和泰
      2年 出町 和之、 ギラーニ アティラ
      1年 内一 哲哉、 陳 振茂、 羅 雲
         ポパ ラドゥ クリスチャン
 修士課程 2年 井勝 伸彦、 会田 美紀子
      1年 竹下 明、  福崎 康博、  品川 亮介
 学部学生 4年 三田 剛、  津守 秀昭

(2) 主な研究活動

高温超電導体によるトカマクプラズマの位置制御
  福崎康博、井勝 伸彦、内一哲哉、宮 健三
高温超電導体の磁束ピン止め効果を利用して、トカマクプラズマ位置不安定性を 抑制する手法を提案し、その妥当性を数値計算により検証した。プラズマ動的平衡 計算および超電導遮蔽電流計算を連成して、Bi系高温超電導線材をプラズマ周辺に 配置した場合のプラズマ位置の時間発展を評価した。その結果高温超電導体を配置 することにより、プラズマの寿命は msec のオーダからmin のオーダに向上する との結果が得られ、高温超電導体によりプラズマの位置は著しく安定化することが 判った。

核融合炉の磁場環境下での高温超電導体の特性解明
   福崎康博、井勝 伸彦、内一哲哉、宮 健三
高温超電導体をプラズマ位置制御に応用する場合、核融合炉の磁場環境下での プラズマと高温超電導体の間の相互作用の解明が必要となってくる。そこで、 コイルにより、プラズマを模擬した高温超電導体の実験を実施し、 非常に速い磁場変化の際に誘起される超電導遮蔽電流の支配的パラメータを調べた。 その結果、超電導遮蔽電流はフロー抵抗に大きく依存することが 判明した。さらに超電導体のフロー抵抗を実験的に同定することを行なった。

核融合炉機器の電磁弾性力学
   周又和、吉田義勝、宮 健三
磁気剛性を考慮した電磁弾性安定問題の新たな解析手法を開発した。これに基 づきヘリカルコイル体系での数値計算コードを開発し、LHD体系における安 定性を解析した。また、炉内薄肉シェル構造物の強磁場下でのダイナミックス に関するスケール則を確立するため、核融合炉での磁場条件に対応する近似を 導入した相似則を提案、その適用性を数値実験により検証した。

フラクソイドダイナミクス法による磁束量子挙動のシミュレーション
   津守秀昭、出町和之、宮 健三
Ginzburg-Landau理論を組み入れたフラクソイドダイナミクス法に基づき 第二種超電導体中における磁束量子挙動のシミュレーションコードを開発した。 このコードを用いてNb-Ti超電導体の磁束密度と臨界電流密度との関係を解析して、 YasukochiモデルとKimモデルを予測することができた。 また Nb-Ti超電導体中のα-Ti相の圧延率及び含有率と臨界電流密度との関係を求め、 臨界電流密度向上のためのガイドラインを示した。

臨界電流密度の異方性を考慮した第2種超電導体の遮蔽電流解析
   品川亮介、武田信和、宮 健三
これまでに我々は、第II種超電導体における遮蔽電流分布を評価することを目的 として数値計算手法の開発を行ってきた。 一般に酸化物高温超電導体において、臨界電流密度はその電流と磁場の各々の方向 に依存することが知られている。 これらの依存性のうち、磁場の方向に対する依存性は既存の超電導遮蔽電流分布の 数値計算手法でも扱うことができるが、電流方向に対する依存性を考慮した研究は まだ例がない。 そこで、当研究室では臨界電流密度の電流方向に対する依存性を取り扱うための 数値計算手法を新たに開発し、解析解との比較によってその有効性を検証した。 また解析手法の開発と関連して、T法を用いた超電導遮蔽電流問題における 電流-電場構成方程式を新たに提案した。

高温超電導フライホイールの設計研究
   羅 雲、出町和之、宮 健三
本研究では、フライホイールの磁気軸受けとして開発された高温超電導 浮上システムにおける浮上力特性を、臨界状態モデルに基づいた電流ベ クトルポテンシャル法を用い、数値解析により評価する。また大型高温超電導 フライホイールの実現に向けて、磁気軸受けの主な構成要素永久磁石、高温 超電導バルクの配置など幾何学的パラメータの浮上力への 影響のメカニズムを解明し、浮上システムの最適化手法を提案する。

渦電流探傷プローブの特性評価・最適設計に関する研究
   Popa.R.Cristian、陳 振茂、宮 健三
原子力発電プラントの蒸気発生器細管の供用期間中検査に適用されている 渦電流探傷法(ECT)の検出性能の向上を目指して、プローブの検出性能評価 とその最適設計に関する研究を行なっている。 高い検出性能を有するプローブを設計するためには、 ECTプローブの弁別素性を解明することが必要である。 これまでに、数値解析法と近似的な理論法により励磁磁場分布の重要性を指摘し、 この知見を基づく検出性能評価の簡易法を提案・検証した。 さらに、プローブの最適設計進めている所である。

磁性材料劣化の非破壊診断に関する研究
   A.Gilanyi、橘田和泰、上坂 充、宮 健三
原子炉圧力容器鋼A533Bやステンレス鋼SUS410のような磁性材料の特性劣化を電磁非破 壊的に評価・診断する手法の開発研究を行なっている。本年度は、材料の熱処理の違 いによってもたらされる材料特性(硬さ)変化を、測定した磁気ヒステリシスの変化 によって評価する方法について検討した。その結果、A533Bにおいて、保磁力(Hc)と ビッカース硬さ(HV)の間に線形関係が成り立つことがわかった。また、SUS410につい ても、両者の関係を明かにすることができた。さらに、磁性材料の電磁的非破壊診断 の実用化に非常に有効と思われる、電磁力測定に基づいた新たな劣化診断方法の開発 も行なった。

ECT解析技術の高度化に関する研究
   吉田義勝、宮 健三
渦電流探傷プローブの設計支援や欠陥診断手法の確立を目的として、渦電流探 傷法における順問題解析手法の高度化に関する研究を実施している。これまで 磁気ベクトルポテンシャル法による数値計算の適用性と精度を検討してきたが、 平成7年度には、新たな手法としてテンソルグリーン関数を用いた積分形の支 配方程式を導出し、数値計算コードの開発を行なった。計算結果は測定結果と 比較し、プローブ測定信号の効率的な予測が可能であることが分かった。

フェムト秒ライナックの開発研究
   竹下 明、古澤 孝弘、上坂 充
ビーム物質相関のフェムト秒時間領域の初期過程、即ちイオン化、 励起、イオン分子反応、 原子分子振動、欠陥生成などを解析する研究には、100フェムト秒 電子シングルパルスが 生成できるライナックが必要となる。その設計研究をビームダイナミックス解析コード ”PARMELA”を用いて実施した。フェムト秒ライナックは、200keV熱電子銃、 476MHzサブハ ーモニックバンチャー、2.856GHzサブハーモニックプリバンチャー、2台の Xバンド加速 管、磁気パルス圧縮器より構成される。パルス圧縮後、35MeV,110fs,0.8nC, 7.3kAの高輝度 フェムト秒電子シングルパルスが達成された。今後さらに設計を最適化し、 また加速管内での航跡場の影響も考慮する。

ダイナミック光放出CTに関する研究
   会田 美紀子、古澤 孝弘、上坂充
3次元光放出CTスキャナー光検出器に時間分解能 を持たせ、ライナックからの電子ビーム が誘起する高速発光現象を動画像化する装置を開発 した。測定対象は、電子が水中で発する チェレンコフ光と固体シンチレータ中の発光現象で ある。動画像の時間分解能はスキャナー から光電子増倍管へ光を転送する光ファイバー中で の光の分散で決まり、今回はサブナノ秒 であった。以前のダイナミック光放出CTの時間分 解能はサブミリ秒であったのを、一気に サブナノ秒に高時間分解能化したことになる。本研 究は極短電子パルス誘起高速量子現象の 動画像化の先駆けとなる。

フェムト秒ライナックにおける航跡場に関する研究
   三田 剛、上坂 充
ライナックにおける航跡場とは、加速管中の 電子バンチによって加速管内壁に誘起される表 面電荷、電流がつくる電磁場のことである。 その航跡場が、電子バンチ自身に及ぼす影響、 即ちパルス幅、ビームサイズ、エネルギー分布 がどのように変化するかを定量的に評価し、 フェムトライナックの設計に反映することを目 的とする。そのために、遅延時間を考慮し、 加速管内の4次元ベクトルポテンシャルを3次 元境界要素法を用いて求め、その影響下で電 子ダイナミックスを計算するコードを作成した。 本コードはまだ開発途上であるが、ゲージ 条件に改良を加えれば、この問題に関して世界 で最も高性能なコードとなる可能性がある。


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