1. 原子炉設計工学研究部門

(1) 構成

教授       班目 春樹
助教授      岡本 孝司
助手       鶴  大悟
協力者      助川 敏男(当研究施設技官)
学振研究員    深谷 征史
大学院生
 博士課程 3年 馮 堅、佐藤 聡
      2年 酒井 清吾、染矢 聡
      1年 佐伯 壮一、ビストリツェアヌ ミハイ
 修士課程 2年 池田 耕、松山 敬介
      1年 丹治 晃一、富宇賀 健、馬場 昌法
 学部学生 4年 田中源太郎、浜田 安久
(2) 主な研究活動

噴流による自励スロッシング
  深谷 征史、佐伯 壮一、丹治 晃一、岡本 孝司、班目 春樹
FBR実証炉設計では経済性を高めるため、 炉容器やIHX容器をできるかぎり小型化することが要請されており、 容器内の冷却材流速は高速化する。 この容器内流れが非常に速くなると地震時のスロッシング挙動に 影響を与えることは従来より知られていたが、 我々は条件によってはスロッシングが外的変動荷重ではなく 定常流によってエネルギーを供給され、 自励的に成長することを発見した。 このような現象はもし実機で発生するとプラント運転性能へ 多大な影響を与えるものであり、あらかじめ十分な検討が必要である。 しかしながら現象の複雑さから現状では解析だけによる予測は非常に難しい。 そこでまず現象を十分に把握することを目的として、 噴流による自励スロッシング発生機構を説明するモデルを構築した。 これは、噴流とスロッシングの相互作用によって、噴流の変動による フィードバックをモデル化したものである。 このモデルによって垂直噴流、水平噴流の2種類の自励スロッシング の発生領域を説明する事が出来た。
また、自由液面を扱う事のできる数値解析コードを開発し、 自励スロッシングを模擬することが出来た。 この解析コード上の自励スロッシング現象に対して、 上記発生メカニズムモデルを適用し、モデルの有効性について 確認を実施した。その結果、 振動発生条件の液位依存性を数値実験により確認できた。

スゥェル フラッピング
  染矢 聡、馬場 昌法、岡本 孝司、班目 春樹
自由液面に剥離噴流が突き上げるような条件において、 剥離噴流と自由液面との相互作用により、噴流の自励的な振動現象が 発生する事を発見した。 この現象は、ジェットフラッタとは異なり、 噴流、構造物、自由液面の3者が存在する場合にのみ生ずる。 この振動においては、自由液面の盛り上がりの生成消滅が特徴的であり、 スゥェルフラッピングと命名された。 この振動現象は世界でも初めての報告である。
この振動現象に関して、実験的な検討を行い振動特性を明らかにするため、 2次元矩形体系のモデルを作成した。 その結果、振動数が盛り上がりの高さと強い相関がある事を見出した。 振動現象の発生メカニズムに対する検討を実施している。

渦による凹み先端からのガス巻き込みに関する研究
  酒井 清吾、田中源太郎、岡本 孝司、班目 春樹
FBR実証炉の開発においては機器の小型化が重要課題であるが、 その結果液面近傍の冷却材流速が高くなると、 液面からカバーガスを巻き込む恐れがある。 ガス巻き込みは炉心反応度変化や冷却性能劣化の原因となるので 慎重に避けなければならない。 ところでガス巻き込みには、液面から内部へ潜り込んでいく 流れによって生じる潜り込み型というタイプと、 渦中心の凹みの底部から巻き込む渦型とがある。 我々はこれまで前者について研究し、 その発生限界はガスを巻き込む位置の局所的流速と局所的液面形状、 具体的には液面の勾配が支配していることを見出した。 そこで現在は渦型のガス巻き込み発生を支配する因子を見出すべく、 実験を行っている。 凹み渦の底部からの巻き込み限界については これまで数人の研究者が実験式を提唱しているが、 それらは限られた体系に適用可能なだけで任意体系に適用できるものはない。 我々の装置は単純なもので、円筒容器の上部外周から接線方向に流入させる ことで循環を発生させ、底面中央の細い円管から排出させて その真上に凹み渦を発生させるものである。 巻き込み限界がこれまでのどの実験式とも一致しないことを確認した上で、 まず流速分布の測定を行った。 その結果、体系内における3次元的な流速分布をほぼ把握する事ができた。 また凹み形状は出口管の径に大きく依存することも分かった。 凹みがある程度以上深くならなければガス巻き込みは発生しないので、 凹み深さを支配する因子を把握していくことが大切である。 旋回渦回りの流れは複雑で、さまざまな因子が影響していることが わかって来た。 実験により、より詳細な流れ場を測定するとともに、 数値解析によって流れ場をシミュレーションする予定である。

自然対流のカオス的挙動に関する研究
  佐藤 聡、班目 春樹、岡本 孝司
高速増殖炉において、事故時の崩壊熱は自然循環によって 冷却される。 一方、単相流の単純な自然循環ループにおいて、 条件によっては、流動がカオスとなることが知られている。 実機においては、自然循環除熱が定常的に行なわれる必要があり、 自然循環におけるカオス挙動の検討が重要である。 また、実機においては、加熱部は炉心のみであるが、 冷却部はいくつかのループに分かれている。 このような、マルチループにおけるカオス的挙動は、 ほとんど研究されていない。
本研究においては、実験および数値解析によって、 マルチループにおける自然循環時のカオス挙動を 把握している。 計算によって、マルチループにおいては、シングルループにおける カオス挙動にくらべさらに複雑になることが明確となった。 また、マルチループにおいては、初期条件によって 異なるアトラクタに 吸引される 事を明らかにした。

狭流路を介しての密度差置換流の研究
  鶴 大悟、浜田 安久、岡本 孝司、班目 春樹
高温ガス炉のスタンドパイプが破損するとヘリウムガスの流出・内圧低下に 続いて外部空気とヘリウムガスとの密度差による置換が起きる。 このような狭流路を介しての密度差による置換の律速条件について 基礎的実験を行っている。 流路が単一であると流路長/流路面積の増加につれ置換速度は まず増加しその後減少することが知られていたが、流路が2つの場合は 単調に増加することが確かめられた。 可視化による流れ場の把握によって、 2つの流路内において、2種類の流体のもぐり込み、巻き込み といった現象が発生している事が確認できた。 その結果、もぐり込み、巻き込み現象が 交換速度を大きく支配している事がわかり、 これらの現象に対するモデル化を実施している。 さらに、これら二流体の混合現象を把握するための、 新モデルを用いた数値計算コードを開発している。

プラズマディスラプション時の第一壁の挙動に関する研究
  班目 春樹、助川 敏男、岡本 孝司
核融合炉第一壁はディスラプション負荷によって 損傷していく。 しかしながら、従来のレーザや電子ビームを用いた研究では プラズマと飛散した黒鉛粒子との 相互作用を考慮していないため、 損傷の割合は過大な見積りとなっている可能性がある。 そこで、MPDアークジェットを用いる実験を行う事により プラズマと飛散した黒鉛粒子との相互作用を考慮することができる。 飛散した黒鉛の振舞をスペクトロスコピー法によって 調べ、模擬ディスラプション時の黒鉛および炭素イオンの 挙動を明らかにする実験を行っている。 その結果、飛散した黒鉛の空間的、時間的スペクトル分布を 得る事ができ、これによりプラズマと飛散粒子との相互作用を 評価する事ができる。

画像処理による流速分布測定法の開発
  岡本 孝司
画像処理による各種物理量分布の測定手法は、 物理量の空間分布、時間変化を算出することが可能であり、 従来からのプローブを用いた点計測に比較して優れている。
流速測定手法として、 粒子クラスタのパターンマッチングをベースとした 新しい粒子移動追跡アルゴリズム(Spring Model)を提案し、 その有効性に関して検討を実施している。 このアルゴリズムを3次元流速測定に適用し、 より精度の高い計測を実施できる事を示した。 さらに、精度を上げるために、時間軸方向の情報を利用し、 過誤ベクトル除去などの操作を実施する手法を提案した。 その結果、従来の手法では計測が困難であった流れに対しても、 精度良く流速分布を算出できる事を示した。

干渉画像データからの三次元密度分布計測
  馮 堅、鶴 大悟、岡本 孝司、班目 春樹
気体の密度分布は、 干渉画像とトモグラフィー技術を用いて測定することができる。 従来は、測定値の精度を向上させるためには、 複数の角度から撮影された数多くの干渉画像が必要であった。 本研究では、少数の干渉画像での精度を向上させるため、 遺伝アルゴリズムを利用した新しいトモグラフィー手法を提唱する。 一般に、密度分布は三次元であるのに対して、干渉画像の情報は二次元である。 本研究では、層状流れの特徴の情報でこの情報量の不足を補うこととし、 (1)測定対象が主として拡散現象支配であると仮定して、 (2)密度分布を素密度分布の組合せで表すこととした。 これによりトモグラフィーは素密度分布の組合せの最適化に帰着する。 最適化手法として、遺伝アルゴリズム(GA)を導入した。 本手法に対して、シミュレートされた干渉画像を利用した検証を行ない、 良好な結果を得た。

SPWRの受動的安全系に関する研究
  松山 敬介、岡本 孝司、班目 春樹
受動安全炉として設計が進められているSPWRにおいて、 炉心の露出を遅らせるために、圧力平衡注入系(PBIS)が 設置されている。 この系統は、事故後に水頭差によって蒸気、水の置換を行なおうとする 系統であり、この置換がスムーズに行なわれることを前提としている。 しかしながら、このような置換流においては、蒸気凝縮などの影響により 不安定流動が発生し得ることが予想される。 不安定流動が発生すると、置換流量の減少や構造部材への熱応力付与などの 問題が生じる。 そこで、蒸気、水の置換に関する基礎的な実験を実施し、 不安定流動の発生限界を求めることを試みている。 さらに、本不安定流動がカオス的な挙動をすることに着目し、 検討を実施している。

自由液面乱流
  岡本 孝司、班目 春樹
自由液面は境界自体が移動する事から、非線形性の強い境界となっている。 このような境界における乱流と自由液面の相互作用を 計測した例はいままでに全く報告されていない。 自由液面乱流における境界条件を決定するためには、 これらの相関量を把握する事が必要である。 このため、 画像処理を行う事により界面挙動と流速測定の 同時測定を試み、界面と乱流との相関量を計測することを試みている。 その結果、乱流量と界面乱流量の相関を明らかにする事ができた。 これらの結果を元に数値解析を行い、モデル化を推進している。

高分子注入による界面乱流抑制
  岡本 孝司、班目 春樹
流体中に高分子を混入する事によって、 剪断摩擦を低減し、損失を減らす事ができる事が知られている。 従来の研究は、いずれも流体と壁面との摩擦損失に着目し、 その効果を評価したものである。 我々は流体・気体界面における高分子の損失低減効果に関する 研究を実施している。 このような界面は移動境界となるため、 従来の固定境界とは全く異なった挙動を示す。 ガス噴流および水(高分子溶液)噴流実験によって、 自由液面近傍における乱流挙動を計測した。 その結果、高分子によって、界面乱流が抑制される事を 定量的に示す事ができた。

ホログラフィックPIVの開発
  池田 耕、富宇賀 健、岡本 孝司、班目 春樹
流れの3次元挙動を把握するために、粒子画像流速測定法が開発されている。 従来の手法ではステレオカメラによって3次元情報を得ていたため、 情報の密度が非常に薄く、1000個程度の粒子情報を得るのが精一杯であった。 これに対し、ホログラムを用いて3次元情報を計測する事によって、 一度に 100万個の情報を得る事が可能である。 本研究においては、ホログラム上に粒子の情報だけではなく、 空間の密度分布の情報も記録される事を応用し、 HPIVによって密度と速度の同時計測を実施する手法を開発している。