2. 原子炉機器工学研究部門

(1) 構成

教授       宮 健三
助教授      上坂 充
助手       森下 和功
大学院生
 博士課程 3年 出町 和之、ギラーニ アティラ
      2年 内一 哲哉、陳 振茂、羅 雲、
         ポパ ラドゥ クリスチャン
      1年 マイケル ラバラ 
 修士課程 2年 竹下 明、福崎 康博、品川 亮介
      1年 高瀬 健太郎、中山 匡、木下 健一
 学部学生 4年 山田 智海、斉藤 桂一郎
(2) 主な研究活動

高温超電導体によるトカマクプラズマ垂直不安定性改善
  山田智海、福崎雅博、内一哲哉、吉田義勝、宮 健三
高温超電導体によるプラズマ垂直不安定性改善の検証として、 国際熱核融合実験炉(ITER)の体系での高温超電導体の安定化 効果の評価を行なった。高温超電導遮蔽電流計算及びプラズマ 平衡計算の連成解析を実施した結果、高温超電導体によりプラ ズマは十分安定化され、その効果は従来のポロイダル磁場コイ ルによる制御より優れていることが明らかとなった。また、 配置した高温超電導体における電磁力、核発熱等の炉工学的 問題点も検討し、十分適用可能であることが示された。

高温超電導バルク材の磁束フロー抵抗率測定
  福崎康博、内一哲哉、吉田義勝、宮 健三
超電導体の電磁的特性としては臨界電流密度と磁束フロー抵抗率が重要である。 臨界電流密度は小試験片を用いた多くの測定例が報告されており、実用的バル ク材の等価臨界電流密度の測定方法も提案されている。これに対しフロー抵抗 率測定の報告は少なく、四端子法による測定が不可能なバルク材の測定例はな い。そこで本研究では、片持支持梁に取りつけた超電導バルク材にパルス磁場 を印加し、その際に生じる振動波形を測定することで実効的フロー抵抗率を推 定するパルス励振法を提案した。さらに、Y系のバルク材および四端子法によっ てフロー抵抗率測定が可能な線材(Bi系)を用いて、測定精度の検証実験を行 ない、パルス励振法の有効性を示した。

磁束量子動力学法に基づいた超電導電磁現象の数値解析
  出町 和之、高瀬 健太郎、宮 健三
工学的に有用な第二種超電導体の特性として、磁束量子のピン 止め効果、それによって生じる臨界電流密度がある。高温超電 導体の実用性を高めるという目的でそれらの振舞について研究 を行っている。Ginzburg-Landau理論に基づいたシミュレーション 手法である磁束量子動力学法を開発し、ピンの配置から臨界電 流密度を求めることができるようになった。第二種の低温超電 導体を解析する目的で二次元及び三次元の解析コードが開発さ れてた。また高温超電導体をパンケーキモデルに基づき解析す るコードも開発し、この手法を改良して高温超電導体の磁気相 図の予測も行えるようにする予定である。

第2種超電導体の臨界電流密度異方性の解明
   品川亮介、Michal Rabara、出町和之、吉田義勝、宮 健三
超電導応用機器の設計の際には臨界電流密度の磁場強度や磁場方向に対する依 存性を解明しておく必要がある。本研究では金属系超電導体NbTiと銅酸化物超 電導体Bi2223を取り上げ、その臨界電流密度の磁場方向依存性をモデル化した。 NbTiの場合には異方性の原因はピン止めセンターの形状にあり、一方、Bi2223 の場合は結晶構造の異方性から臨界電流密度の異方性が生じる。前者について は要素ピン力の異方性をモデル化し検証実験との比較によりその妥当性を示し た。後者については有効コヒーレンス長モデルに基づく異方性の理論モデルを 提案し、併せて実施した四端子法による臨界電流密度測定との比較によってそ の妥当性を示した。

高温超電導線材における交流損失によるクエンチ可能性の評価
   中山 匡、吉田義勝、宮 健三
磁束フロー・クリープ・モデルに基づき、変動磁場下において高温超電導線材に発 生する交流損失を数値計算した。臨界状態モデルを用いて計算した交流損失と比較し た結果、磁場の振幅が大きくなるほど、そして周波数が大きくなるほど磁束フローの 影響が大きくなり、磁束クリープの効果は小さくなることが分かった。続いて熱伝導 を考慮し、交流損失によりクエンチが起こる可能性を数値評価した。計算の結果、高 温超電導線材は極めて安定で、非常に厳しい磁場条件下においてもクエンチは起こり にくいことが確認された。

高温超電導磁気軸受の緩和特性とその改善
   羅 雲、吉田 義勝、宮 健三
磁束クリープ現象はピンニングセンターに 捕捉された磁束量子の熱的揺らぎに起因し、微視的には磁束量子 の微小移動に寄与するが、 巨視的では超電導体内の経時的に遮蔽電流の減衰や磁場分布の変化と して現れる。高温超電導磁気軸受の場合、磁束クリープは浮上特性の 緩和の一つの原因と考えられる。 従って、この現象による影響を超電導磁気軸受の設計に 反映し、改善する必要がある。 そこで、まず高温超電導体における磁束クリープ理論に基づいて、 理論的な考察を行ない、磁束クリープに起因する超電導磁気軸受の浮上特性緩和 の巨視的なメカニズムの解明を試みた。 次に高温超電導体の遮蔽電流のヒステリシス特性を利用した浮上特性緩和の改善 手法を提案し、数値解析によりその有効性の検証を行なった。

磁気特性変化に基づいた構造用鋼の損傷の非破壊診断
Gilanyi Attila、 森下 和功、 上坂 充、 宮 健三
本研究では強磁性材料に適用可能な磁気的非破壊診断手法を提案し、 その妥当性の検証を行なった。特に強磁性材料における磁気的特性 の、疲労損傷・焼きなまし・塑性変形に対する感度に着目し、疲労 を加えた材料及び熱処理条件の異なる材料における磁機械的特性と 磁気的特性との相関関係の解明を行った。本研究で提案した磁気測 定に基づく非破壊診断手法は、焼きなましや降伏応力もしくは塑性 変形以下での疲労による微細構造の変化に対して、微弱磁場の条件 下でさえも感度が高く、実用体系に適用する場合の有力な候補であ ると考えられる。さらに本研究では、ディリクレまたはノイマン境 界条件を有する電磁気的境界値問題に対する有効な解法のひとつと して、新しいWavelet-Galerkin法の開発を行った。

ECTプローブの簡易設計理論と欠陥形状の再構成
   陳 振茂、宮 健三
ECTプローブの最適設計に関して、励磁磁場を用いた簡易設計手法の 提案と検証を行なった。従来法の3次元渦電流解析に基づく方法に比べて 膨大な計算量の低減と渦電流の分布の定性評価に優れていることを 確認した。ECT技術の高度化に関するもう一つの重要な研究方向と言われる ECTによる逆問題について、新しい順問題のアプローチ の提案によって、複雑な形状を有する導体における人工き裂の形状再構成を成功した。 この手法に基づき、自然き裂の形状再構成の研究を更に進めている。

Optimized Design of an ECT Probe & Optimized Eddy Current Detection of Minute Cracks
   Popa Radu Cristian、 宮 健三
The eddy current testing research that has been carried out in our laboratory is related to the necessity of improving the reliability of this nondestructive evaluation (NDE) technique as applied to in-service inspection (ISI) of steam generator (SG) tubing of pressurized water (PWR) nuclear reactors. In the first stage of this work, I investigated the design criteria for optimizing the performance parameters of ECT probes, i.e. the detectability of small cracks, and the enhancement of signal/noise ratio to probe lift-off changes. Two new probe arrangements were designed and the results of their numerical simulations showed a significant improvement compared with other existing sensors. The second stage is concerned with approaching the inverse problem: the reconstruction of crack shape from ECT data. By using a multivariate data processing algorithm, and a neural network approach, complex crack shapes were estimated with good accuracy.

フェムト秒電子ライナックに関する研究
上坂 充、竹下 明、木下健一、渡部貴宏、上田 撤
ビーム物質相関の素過程はフェムト秒の時間領域から始まる。この現象を解明するには 、少なくても100フェムト秒の極端パルスの照射が必要である。レーザーにおいては、す でに100秒のパルスは市販されている。一方電子ビームも、東大工原施のライナックにお いて磁気パルス圧縮によって、700フェムト秒が達成されている。本研究では、さらに短 い100フェムト秒、ピーク電流10kAの電子シングルバンチを生成できる新しいライナック を解析、設計、開発する。加速用電磁波の周波数がXバンド(11.424GHz)のものとSバンド (2.856GHz)のものとの2つのタイプを検討している。前者は150kV熱電子銃、2台のサブ ハーモニックバンチャ、2本の加速管及びアクロマティックアーク型磁気パルス圧縮器 より構成される。後者はレーザーフォトカソード高周波電子銃、1本の加速管、シケイ ン型磁気パルス圧縮器より構成される。電子バンチ内での空間電荷効果、加速管の中の 航跡場の電子パルス波形への影響、偏向電磁石中のエミッタンス増大等研究を行ってい る。

フェムト秒電子ビームの計測
   渡部貴宏、斎藤桂一郎、上田 撤、上坂 充
現在東大工原施が所有しているフェムト秒ストリークカメラの時間分解能は200fsである 。従って100fsの電子を測ることはできない。そこで、極短電子ビームのパルス形を、そ れがアルミニウム箔に照射したときに発せられるコヒーレント赤外遷移放射光干渉法に よって測定する。200fsより短い電子ビームの測定に適したマイラ型ビームスプリッタお よび常温パイロエレクトリックボロメータを用いたマイケルソン干渉計を作製し、その 電子ビームを測定する。平成9年度に東大ツインライナックの18Lラインを改造し、200 fs程度の電子ビームを生成し、上記装置によって測定する予定である。

極短X線の発生と利用
   上坂 充、渡部貴宏
東大工原施ライナックからのサブピコ秒電子ビームを厚さ30mmの銅箔に照射し、ピコ秒 の特性X線を発生させ、それをNaCl単結晶に当て、X線イメージプレート上にBragg回折 像を得ることに成功した。また、高エネルギー物理学研究機構所有の3TWテーブルトップ テラワットレーザーからのレーザー光と10ps電子ビームを90度の角度で衝突させ、トム ソン散乱X線の発生も行った。平成9年度は180 度でレーザー光と200fs電子ビームを衝 突させるレーザーシンクロトロン放射X線の発生実験を行う。これら極短X線の利用と しては、時間分解X線回折によるイオン結晶の格子振動の動画像化を試みる。ここでは 、レーザー分光で使うポンプ&プローブ法のアナロジーで、レーザー光をポンプ光として イオン結晶に照射し格子振動を誘起させ、それに対して同期・遅延したX線を分析光とし てX線回折像を得る。さらに逆問題によって各時刻における格子の状態を画像化する。