UTNL-W-0004J Section 2.6
2. 研究活動
2.6 ブランケット管理部

スタッフ

    助教授 山口憲司
    助 手 小野双葉


主な研究活動

1. 原子状水素ビーム照射下での水素透過挙動
山口憲司 (協力者:システム量子工学;大越啓志郎, V. Alimov,山脇道夫)
原子状水素を放出する装置を用い、ニオブ(Nb)における重水素透過を調べた。Nbは「超透過」性を有するとされ、ダイバータにおける「メンブレイン・ポンプ」候補材料として期待されており、実験試料としては多結晶、純度 99.9 %、厚さ 0.1 mmの薄膜を用いた。ソースガスとしては重水素を用いたが、原料ガスの純度が問題となり、ヒータの焼損がしばしば起こったため、新たに VCR配管のガス導入系を構築し、高純度の同時が可能にした。また、真空的には、試料容器を超高真空領域に保ったままビーム注入が可能なよう、 ABS真空容器に加え、ビームラインも差動排気を行うこととした。実験では、
(1)試料温度を 950 Kで一定とした場合の、重水素透過速度の ABS原子化ノズル温度に対する依存性、
(2) ABS原子化ノズルを一定温度に保持し、同時に導入重水素ガス圧力を 1 Paに保持した条件下での、試料における透過速度の試料温度依存性と、照射前後での試料表面元素組成比の変化を調べた。
(1)では、ABSノズル温度の上昇とともに透過速度が大きく増加し、 2300 K付近で透過速度が飽和していく様が観察された。ノズル温度の上昇に伴い原子の解 離率が増えたためと解釈した。 (2)では、高温での試料アニーリングをはさみ、各試料温度で、ビーム照射前後にオージェ電子分光法に行い、表面元素組成を確認しながら、照射実験を行った。試料温度 500 - 1000 Kでの透過速度は高 温側にて増大し、飽和傾向となることが観察された。透過フラックスの入射フラックスに対する比は、最大 0.05程度となった。

2. トリチウムビーム注入によるプラズマ対向材料中の水素同位体保持に関する研究
山口憲司,小野双葉 (協力者:システム量子工学;尾上修,山脇道夫)
Moは水素溶解度が小さいためトリチウムインベントリーが小さく、しかも高融点を有するため、プラズマ対向材料の候補とされている。今年度は、トリチウムビーム試験装置(TBTS)を用いて Moに水素同位体イオンビームを室温で照射し 、昇温脱離法 (Thermal Desorption Spectroscopy)によって各水素同位体(HDT)について保持量を評価した。保持量に関しては、分子量が小さいほど大き く、また、軽水素と重水素を比較すると、軽水素の方がより低フルエンスで飽 和する傾向にあった。さらに、温度 400 Kでの重水素注入による昇温脱離試験の結果と比較すると、室温照射の場合に見られた低温側の脱離ピークは見られず、 400 Kでの照射の方がより低フルエンスで保持量が飽和する傾向にあることを確認した。

3. 境界プラズマ-対向材料相互作用下における原子分子過程に関する研究
山口憲司 (協力者:システム量子工学;松山征嗣,山脇道夫)
核融合境界プラズマ中における様々な粒子種の測定するために、質量分析装置の設計を行い、実験室プラズマ中において、、等方性黒鉛に高フラックス定常プラズマを照射し、質量分析する実験を行った。化学損耗によりプラズマ中に混入したと思われる、CHxイオンのみならず、 C3Hx C4Hx等もプラズマ中にて観測され、多原子イオンも多く生成していることが明らかとなった。また炭化水素種のプラズマ内における輸送過程、再付着過程を記述するモデルを作成し 、炭化水素イオンは解離、イオン化しやすく、かつ対向壁方面へ再付着しやすいことが計算結果より明らかとなった。

4. 境界プラズマ中の不純物粒子の損耗・輸送に関する研究
山口憲司 (協力者:システム量子工学;宮内克己,松山征嗣,山脇道夫)
プラズマ−壁相互作用により放出される不純物粒子のプラズマ中における輸送 挙動は、プラズマ特性及び壁材料寿命に多大な影響を与える。そこで、本実験では電子温度 10 eV、電子密度 1018 m-3を有する境界プラズマ模擬装置 MAPにおいて発生させたプラズマを黒鉛ターゲットに照射し、放出される不純物粒子の発光スペクトルを様々な条件下で、回折型分光装置を用いて測定し、そのデ ータから放出粒子のエネルギー分布及び密度分布の変化を観測した。結果とし て、放電電流の上昇に伴いプラズマ中の C+強度及びエネルギーは増加し、また 、ターゲット近傍でシースによって減速されているのも観測された。さらに、 ヘリウムプラズマに水素ガスを導入することによりプラズマ中の C+強度は減少 するが、 CHラジカルの生成量は水素とヘリウムの混合比がほぼ 1:1までは変化せず、水素導入量比がこれより上昇することにより顕著なラジカルの増加が観 測された。メタン導入により、プラズマ上流への輸送においてはイオン化及び減速過程、下流への輸送にはおいては不純物イオンの加速過程が顕著であることが分かった。一方、ターゲット近傍に取り付けた基板の印加バイアスの増加に伴い、プラズマ中の C+強度は増加したが、基板上の炭素堆積量は減少した。これは、2次電子の放出による初期バイアス効果の軽減によるものと考えた。

5. U-Th-Zr系水素化物に関する研究
小野双葉、山口憲司(協力者:システム量子工学、ハディ.スワルノ、山脇道夫)
U-Th-Zr系化合物はトリウム燃料としてのウラン合金水素化物の研究として進められてきた。固有安全性を有するU-トリウム(Th)基合金の水素化物燃料等の開発に関して、 各種U-Th基水素化物の水素吸収放出特性の評価等の基礎研究が行われてきた。近年は、高速炉によりマイナーアクチニドを消滅処理するためのターゲット燃料として、 水素化物等の可能性を検討されつつある。さらには、核融合炉における水素同位体であるトリチウムの貯蔵、分離、回収など核融合炉での燃料サイクルへの有効性も期待される。これらのことから、新型核燃料としても注目されているウラン(U)−ジルコニウム(Zr)合金をはじめ、 各種ウラン合金とそれらの水素化物の合成について実験的に検討している。

6. Na-Fe系複合酸化物の製造に関する研究
小野双葉、山口憲司(協力者:システム量子工学、利根川雅久、山脇道夫)
 高速炉の冷却材であるナトリウム(Na)が大気雰囲気で漏えい燃焼した場合、鋼鉄製周辺構造材料の腐食は、Na酸化物と構造材料中の主要元素である鉄(Fe)の複合酸化物形成によって進行する場合が多い。このため、腐食機構の詳細な解明や、腐食の抑制及び防止対策を効果的に施すためには主要なNaFe複合酸化物の化学熱力学的データを整備することが必須である。しかし、NaFe複合酸化物は、ー般に酸素や湿分の影響を受け易く、これまでの技術では高純度のNaFe複合酸化物の製造は困難であった。従って信頼性の高い化学熱力学的特性値の整備も不完全なものであった。 本研究は、Na4FeO3等種々の主要な高純度NaFe複合酸化物を作製し、これらの熱力学的特性を整備すると共にNa化合物を取り扱う化学熱力学計測技術を確立し、信頼性の高い標準データを取得することを目的としている。今年度の実験では、まずNa4FeO3の生成実験を行い、低酸素ポテンシャルで生成する高純度の当該化合物を研究室で合成する技術を確立した。

   7. 熱分析装置を用いた各種原子力関連材料の熱物性測定実験
小野双葉(協力者:ハディ.スワルノ、利根川雅久、伊藤 洋、山脇道夫)
核燃料材料の基礎物性に関する実験を行ってきているが、ウランマンガン系化合物等あるいはウラントリウム系化合物等、さらにはナトリウム鉄系複合酸化物等の熱的特性はこれまで実験的に測定された例があまりない。その理由として核燃料物質を取り扱える施設は限定されてしまうことや生成物が大気中で不安定であることなどが挙げられる。しかし、原子炉での想定される事故や燃料の安全性等の観点からは、これら燃料材料等の熱的特性を明らかにすることは重要である。ここでは、マックサイエンス製熱分析装置(TD-3000)を用いてこれら燃料材料などの熱特性を実験的に求めて、既存の熱力学データとの比較やデータベースとなりうる熱力学的データを取得する事を目的とする。さらに水素同位体精製および分離材としてのチタン、ジルコニウム等の化合物などについて熱分析装置(TG-DTA,DSCおよびDILATO)を用いて、熱重量変化特性、比熱測定および熱膨張特性等を測定する。

8. トリチウムによる汚染とその除染に関する研究
小野双葉 (協力者:システム量子工学;山脇道夫)
  トリチウム取扱装置などでトリチウムガスあるいはトリチウム水蒸気の供給から回収または廃棄までの一連の操作を行うと、配管材料や測定機器の内壁などには必ずトリチウムの吸着(付着)が起こる。この際、吸着したトリチウムは表面に残り材料などに汚染をもたらす。この汚染の度合は材料の種類、表面状態および取扱い時の真空度などで大きく異なり、キュリーオーダー以上の取扱においては、より深刻な問題になることは良く知られている。吸着トリチウムによる材料の汚染やその除染、あるいは吸着トリチウムの再放出等に関する問題は、環境安全あるいは安全取扱上のみならず、測定精度への影響、計量管理上からも重要である。
これまでのトリチウムの吸着・脱離研究をさらに踏み込んで各種材料へのトリチウムのトラップメカニズムを明らかにすることを目的として計算・実験などによる検討も行う。