3. ビーム物質相関部門

(1) 構成

教授       勝村庸介
助教授      上坂 充
助教授      柴田裕実(原子力総合センター)
非常勤講師    蔡 中麗
助手       渡部貴宏
協力者      吉井康司、上田 徹、原野英樹 (当研究施設ライナック管理部)
大学院生
  博士課程 3年  左 志華、呉 国忠
       2年  千歳 範壽
  修士課程 2年  木下健一、吉川大士
       1年  浦辺 守
  学部学生 4年  菅原 淳、室屋裕佐
(2) 主な研究活動

パルスラジオリシス法による水溶液のイオンビーム照射効果の研究
   千歳 範壽、左 志華、浦辺 守、勝村庸介
水溶液に対する放射線照射効果は放射線の種類によって異なることが知られているが、 イオンビームは生物体に対する効果が大きいことから注目されている。 そこで、 基礎となる水溶液の放射線分解についてイオンビームパルスラジオリシス法を用いて調べている。 水の分解で生成する主な活性種は水和電子とOHラジカルであり、 これらと水溶液中の溶質との反応量を測定した。また、 この反応によって二次ラジカルが生成するが、 その二次ラジカルどうしの反応が、 電子線に比べてイオンビームえ非常に大きくなることを明らかにした。

炭酸ラジカルの反応性の研究
   左 志華、蔡 中麗、室屋裕佐、勝村庸介
放射線廃棄物の処理法の一つとして地層処分が考えられるが、 地下水が侵入した場合の放射線分解の問題が解明されていない。 地下水には炭酸イオンが多く含まれ、 放射線による炭酸ラジカルが生成すると考えられるので、 その特性について、 レーザーフラッシュフォトリシスとパルスラジオリシスの二つの方法で調べた。炭酸ラジカルの解離定数については二つの対立する報告があったが、 その問題点を指摘するとともに、改めて pKa=9.5 と決定することができた。また、 炭酸ラジカルと各種無機イオンとの反応速度定数を測定し、 酸化還元電位との関係から pH 依存性を説明した。

パルスラジオリシス法による無機ラジカルの酸化還元反応の研究
   勝村 庸介、左 志華、蔡 中麗、千歳 範壽、浦辺 守
無機ラジカルの酸化還元反応は環境科学、 特に水溶液大気学や高レベル廃棄物の地層処分における 地下水環境の化学変化の評価という観点から重要で、 炭酸イオンから生じる炭酸ラジカルの pK,反応性や各種塩素オキソ酸の酸化還元反応をパルスラジオリシス、 レーザーフォトリシス法で検討を行っている。

ポリエチレンの高温放射線照射効果
   勝村 庸介、呉 国忠
汎用高分子のポリエチレンは放射線照射により架橋反応が進行することが知られ、 放射線を用いた架橋ポリエチレンの製造等が工業規模でも進められている。 これらは室温の照射効果であるが高温では効率等が向上することも考えられることから室温から 400℃までの範囲で照射効果を調べた。温度上昇に従い、 架橋効率は 3 倍程度(300℃)増加、 水素ガスの生成も増加することが見い出された。 300℃以上では熱分解反応が進行し、架橋によるゲル形成は消失する。 この反応の機構について検討した。

ヘリウムイオンビームパルスラジオリシス法による高 LET 放射線照射効果
   勝村 庸介、千歳 範壽、左 志華、浦辺 守
高 LET 放射線水溶液の照射効果の理解は放射線治療、放射線生物、 原子力工学分野では基本的で重要な課題である。 本研究は放射線医学研究所の HIMAC 装置に構築したパルスラジオリシスシステムを用いて行ったもので、 メチルビオローゲンのカオチン収量のギ酸添加量依存性の測定を行った。 米国グループとの共同実験で定常照射実験と本パルスラジオリシス実験の一致がよいこともわかった。 濃度依存性の検討から従来の考え方で説明できない現象も存在しうる可能性を見い出している。

低エミッタンス電子ビームを用いた磁気パルス圧縮
   木下健一、上田 徹、吉井康司、原野英樹、渡部貴宏、上坂 充
従来より当施設では、 電子ライナックによる極短電子パルス圧縮研究を行なってきた。 本研究では電子銃として従来より用いてきた熱電子銃から、 低エミッタンスが特長であるレーザーフォトカソードRFガン (高エネルギー研究所所有)に改め、 これを用いた磁気パルス計算・実験を行なった。結果、 シングルパルスでは世界最短級である 400 fs・エミッタンス 3πmm・mrad のパルスの発生に成功し、 同時に低エミッタンスビームの極短パルス生成への有効性を確認した。

コヒーレント遷移放射マイケルソン干渉法によるサブピコ秒パルス診断
   渡部貴宏、上坂 充、菅原 淳、吉井康司、上田 徹
当施設ライナックにおいて過去より行なわれてきた極短電子パルスの生成は今や400fsが可能となり、 現在計測に用いられているフェムト秒ストリークカメラ (時間分解能300fs)の計測限界に達しようとしている。 そこで、新たな計測手法であるコヒーレント遷移放射マイケルソン干渉法によるパルス診断を導入するための研究を行なった結果、 200fsオーダーでストリークカメラと合致する結果を取得し、 本手法による診断の有効性を世界で初めて定量的に検討・確認した。

遷移放射ポリクロメータによるパルス診断
   菅原 淳、渡部貴宏、上田 徹、吉井康司、上坂 充
フェムト秒ストリークカメラに代わる新たな計測手法として遠赤外放射光用 ポリクロメータが挙げられる。本手法は、直接スペクトルをパルス毎にオンライン で計測できるという特長から有望な手法として期待されているものの、 精度向上の困難さから 未だ電子パルス計測手法としてほとんど研究が進んでいない。本研究では 計測精度を定量的に検討すべく、東北大所有のポリクロメータとストリーク カメラとの結果比較を通して、本手法の可能性を評価した。

サブピコ秒電子パルス・フェムト秒レーザーパルスの高精度同期
   渡部貴宏、上田 徹、吉井康司、上坂 充
ピコ秒・サブピコ秒パルスラジオリシス、レーザー航跡場加速などさまざま な研究分野において、極短量子パルス同志の高精度制御が必要不可欠な 達成課題となっている。本研究において、レーザーフォトカソード高周波 電子銃を用いたサブピコ秒電子パルス とフェムト・ピコ秒レーザーパルスとの高精度同期実験を行なった。 更に本システムの精度評価および計画中である次期システムのための設計を行なった。

極短量子パルス生成、計測及び応用に関する研究
   上坂 充、原野英樹、上田 徹、吉井康司、木下健一、菅原 淳、渡部貴宏
現在、世界の多くの研究所でサブピコ電子パルス、 フェムト秒レーザーパルスを始めとする極短量子パルスの生成、計測、応用研究が行なわれてきている。 本研究では当施設ライナックを用い、 これらを総合的に設計・実験・評価し、生成、計測、制御ともに世界最高級のシステムを構築した。更に、 このシステムを用いた高時間分解X線回折を始めとする応用実験を複数提案し、その基礎実験に成功した。