4. 原子炉本部

(1) 構成

教授       岡 芳明
助教授      越塚 誠一
助手       斉藤 勲・岡村 和夫・向原 民
技術官      助川 敏男・上田 徹・貴家 憲彦・寺門 勉
         間渕 幸雄・仲川 勉
大学院生
 博士課程 3年 木藤 和明
      2年 土橋 和夫・中塚 亨・尹 漢榮
      1年 池田 博和
 修士課程 2年 太田 光二・渡嘉敷 幹郎・近澤 佳隆
      1年 清水 信行・関根 瑞恵
 学部学生 4年 松浦 正治・藤田 薫
(2) 主な研究活動

超臨界圧軽水冷却減速炉の高温化とシステム設計
土橋 和夫, 岡 芳明, 越塚 誠一
超臨界圧軽水冷却減速炉(SCLWR)は超臨界圧水を冷却材とする貫流型の原子炉概念である。ステンレス被覆のSCLWRは出口温度397C、電気出力1013MW、熱効率40.7%となり、超臨界圧火力の1000MW、41.6%に匹敵するが、単位電気出力あたりの炉心流量が多くタービン系の大型化が問題となる。そこで、インコネル被覆を使用し、従来にはない下降流型水ロッドを備え、炉心半径と高さを拡大することで、出口温度508C、熱効率44.0%、電気出力1570MWの高温炉(SCLWR-H)を設計した。これにより単位電気出力あたりの炉心流量が1.16kg/s/MWeとABWRの1.56よりも小さくでき、タービン系の物量低減が期待できる。また下降流水ロッドの流量を調節することで燃焼に伴う反応度変化を補償することができ、制御棒のクラスタ数の低減と駆動機構の簡略化が実現できる。

ブランケット下降流方式を用いた高温超臨界圧軽水冷却高速炉の概念設計
向原 民, 藤田 薫, 岡 芳明, 越塚 誠一
燃料被覆表面最高温度の制約を620Cとして高温超臨界圧軽水冷却高速炉心(SCFR-H)の概念設計をおこなった。大型でありながらボイド反応度を負に保つため径方向非均質炉心としたが、燃焼に伴う内部ブランケット部へのプルトニウムの蓄積と、水素化ジルコニウム層付近ブランケット部での局所出力ピークのため、冷却材出口平均温度は467Cにとどまった。そこで、ブランケット部を下降流冷却にすることにより、冷却材出口平均温度が537Cまで上昇した。熱効率も44.2%まで向上し、冷却材流量/電気出力比は16%低下した。これによりタービン系の削減が期待できる。ボイド反応度は負でありながら、電気出力は大型の1551MWを実現している。

超臨界圧軽水冷却高速炉の増殖性能
渡嘉敷 幹郎, 岡 芳明, 越塚 誠一
超臨界圧軽水冷却高速炉(SCFR)の増殖性能に与える影響について様々なパラメータサーベイをおこない、この炉心の核分裂性プルトニウム残存率は軽水炉の基本的な特徴を示すパラメータH/HM(水素の原子数密度と重金属元素の原子数密度の比)で整理できることが分かった。また、燃料ピン間隔と給水温度をそれぞれ0.9mm/400C、1.3mm/360C、1.8mm/280Cとした革新的、標準的、保守的な設計方針で、酸化物および天然窒化物を燃料とした場合の合計6種類の炉心について設計をおこなった。革新的パラメータを選んだ場合はどちらの燃料であっても容易に複合システム倍増時間25年の設計目標を達成できる。給水温度を320C、燃料棒間隔を1.3mm、インコネル被覆厚さを0.52mmとした現実的な炉心仕様の場合、99%-15Nを濃縮した窒化物燃料を用いると、熱/電気出力は3550/1540MWの大出力で核分裂性Puの残存率は1.018となった。全炉心ボイド反応度は-0.39%dk/kである。

超臨界圧軽水冷却炉の安全解析
木藤 和明、岡 芳明、越塚 誠一 これまでの超臨界圧軽水冷却炉の設計では、設計制約条件の1つとして、過渡状態で最小伝熱劣化熱流束比(MDHFR)が1.0以上であることを課していた。これを満たすため炉心流量が多くなり、炉心出口温度は最高でも400C程度であった。超臨界圧軽水炉は、給水が炉心を通過した後、そのまま全てタービンに送られるシステムである。現行の軽水炉よりもはるかに単純なシステムなので、原子炉系は大幅な合理化が期待できる。しかしながら、貫流型では炉心流量がそのまま主蒸気流量となり、これが多くなるためタービン系があまり軽量化できなかった。そのため、より一層の経済性の向上のためには炉心流量の削減が必要である。
超臨界圧水の伝熱劣化現象は、単相乱流における層流化と類似の現象であり、二相流における沸騰遷移と比較して穏やかである。そこで、設計制約条件としてMDHFRをやめることで、炉心流量の削減が可能になる。MDHFRを用いない場合の燃料棒の健全性については、被覆材としてステンレスおよびインコネルを想定して、座屈、クリープ破損、PCI破損、過圧破損について評価し、これらが生じないように被覆厚さ及び過渡時の被覆最高温度等の制約条件を決めた。被覆温度については、単相乱流の数値シミュレーションを用いて、伝熱劣化後も含めた広いパラメータの範囲で超臨界圧軽水の熱伝達率を求め、これを用いて評価することにした。同時に、この数値シミュレーション結果に基づいた超臨界圧軽水の新たな熱伝達率相関式も提案した。
超臨界圧軽水冷却高速炉のプラント過渡解析コード(SPRAT-F)を開発し、超臨界圧軽水冷却高速炉(SCFR)およびその高温炉(SCFR-H)の、LOCAを除く主要な事故・過渡解析をおこなった。いずれの事象も、事故の制約条件あるいは本研究で開発した過渡の制約条件を満たした。特に、SCFR-Hでは本研究によって初めてその成立性が示された。さらに、給水流量が低下する事象が相対的に厳しいことや、主蒸気加減弁急閉止では炉心流量の停滞が出力低下を促すためあまり厳しくならないなど、貫流型システム独特の過渡特性が把握できた。さらに、種々の感度解析もおこない、密度係数などの炉心特性と必要な安全系の容量との関係を導いた。

超臨界圧軽水冷却炉の制御の研究
清水信行、中塚 亨、岡 芳明、越塚誠一
超臨界圧軽水冷却熱中性子炉プラントの動特性解析を行ない、この炉に適した制御方法を検討した。この炉は、以前に解析を行なわれた高速炉に比べて冷却材密度係数が大きい。そのため流量低下時には、出力減少が大きいが主蒸気温度がほとんど変化しないことがわかった。この結果をふまえ、圧力は高速炉と同様に主蒸気加減弁で制御するが、出力と主蒸気温度は高速炉とは異なる制御方式とした。すなわち、出力は給水流量で、主蒸気温度は制御棒で制御するものとした。今後は、制御系を入れたプラント動特性解析を行ない、外乱に対しての安定性を検討する予定である。

超臨界圧軽水冷却炉の起動方式の研究
中塚 亨、岡 芳明、越塚誠一
超臨界圧軽水冷却炉の起動方式としては、超臨界圧で起動する定圧運転方式と亜臨界圧で起動する変圧運転方式の2つが考えられる。タービン系を含むプラントシステム全体を解析できるコードを開発し、まず定圧運転方式について検討した。定圧運転方式では火力と同様に、バイパスラインとフラッシュタンクが起動時のシステムとして必要になる。超臨界圧軽水冷却炉は圧力容器を用いているので、圧力管を用いている火力のように再熱のためボイラーに冷却水を戻すことはできない。このためバイパスラインから通常運転時使用する貫流ラインへの切替時には、炉心出口温度を定常運転時並の高温にする必要がある。またフラッシュタンクは火力のものよりも大きくなる。今後、変圧運転方式の解析をおこなって、各方式の得失や必要な機器の容量などを考察していく予定である。

グリッドレス法と粒子法の融合に関する研究
尹 漢榮、越塚誠一、岡 芳明
粒子法は計算点である粒子が流体と共に移動する完全ラグランジアンの計算法である。 一方、グリッドレス法は計算点が固定されているオイレリアンの計算法である。そして両者とも計算格子を必要としないので、格子生成することなく連続体の数値解析をおこなうことができる。界面が変形する問題ではラグランジアンが有利だが、 流入流出がある体系ではオイレリアンが有利である。そこで、本研究では新しいグリッドレス法としてMAFL(Meshless Advection using Flow-directional Local-grid)法 を提案し、さらに粒子法のMPSとのハイブリッドとしてMPS-MAFL法を開発している。この方法では計算点としての粒子を流れとは独立に自由に移動させることができる。そのため流出流入境界では計算点を固定しながら、自由液面などの移動境界ではこれに追随させて計算点を移動させて解析することができる。本手法を用いて班目研で実験された自由液面の問題に適用し、計算によって得られた自励振動領域は実験結果とほぼ一致した。さらに、単一気泡が水中を上昇する問題を解析し、無次元数に関して広い領域で従来の実験結果と同じ気泡形状が得られた。今後はエネルギー輸送を伴う二相流の問題を解析していく方針である。

粒子を用いた流体-構造連成振動の数値解析法の開発
近澤 佳隆、越塚 誠一、岡 芳明
流体-構造物連成振動において、液面や構造物が大変形する場合には、従来の差分 法や有限要素法などの格子を用いる方法では解析が困難である。そこで本研究では、 境界の大変形を容易に扱える粒子法を用いて、流体と薄肉構造物を同時に解析する 方法を開発した。始めに剛体壁水槽におけるスロッシングを解析し葉山らの実験と 比較した。浅い水槽で進行波が計算され、深い水槽で定在波が計算された。この結 果は実験と良く一致している。次に水槽が弾性壁で構成されている場合の計算をお こなった。弾性壁が流体の圧力で大きく変形し、スロッシングと連成する様子が計 算された。水槽の大変形のため振動周期が長くなるという結果が得られた。今後は 、計算の3次元化、および、厚肉構造物や粘弾性体なども解析できるような一般化 された粒子計算モデルへの発展を考えている。

粒子法による溶融炉心落下挙動の数値解析
太田 光二、越塚 誠一、岡 芳明 凝固の粒子計算モデルを新たに開発し、2次元体系における水の凍結実験の解析によって本モデルの妥当性を検証した。さらに、非圧縮性流れ解析のための粒子法であるMPS法(Moving Particle Semi-implicit Method)の3次元化をおこない、粒子間相互作用の範囲を定める計算パラメータreを最適化した。
凝固の粒子計算モデルを組み込んだ3次元MPSコードを開発し、溶融炉心が格納容器内の乾いたコンクリート床上に落下する数値シミュレーションをおこなった。溶融物はUO2であるとし、立方体形状の塊として落下するものとする。溶融物の初期エンタルピおよび溶融物の体積を変化させ、コンクリート床上を広がらずに凝固堆積する条件を調べた。溶融物が0.5kg以上では堆積することはなく、それ以下では雰囲気への熱輻射とコンクリートへの熱伝導のために凝固し堆積するようになる。原子炉のシビアアクシデントでは溶融物が多量に堆積しない限り上方から注水によって事故を収束できると考えられており、0.5kg以下の堆積は問題とならない。
粒子法は沸騰や凝固などの相変化を含む複雑な熱流動問題の解析に適しており、そのための計算法として発展させていくとともに、こうした複雑問題である原子炉のシビアアクシデントの諸現象の解析に適用していく予定である。
粒子法を用いた蒸気爆発の数値シミュレーション
池田 博和, 岡 芳明, 越塚 誠一
原子炉のシビアアクシデントにおいて懸念されている蒸気爆発は、強い衝撃波を伴うためその機械的エネルギーによって圧力容器や格納容器を破損することが考えられる。これまでの研究では、直径数mm程度の溶融金属粒子が水中で細粒化する過程の計算をおこない、これまで多くの細粒化過程に関する仮説が提案された中でCiccarelli-Frostの仮説が成立することを示した。
本年度は、多量の溶融物が水中に落下したときの振る舞いについて解析した。冷却水中に溶融炉心が落下するとまず溶融物は小さな塊に分裂する。この過程をプレミキシングといい、機械的エネルギー発生量と密接な関係があるが、分裂メカニズムについては未だ明確になっていない。そのため粒子法(Moving Particle Semi-implicit, MPS Method)に新たに凝固計算モデルを加え、プレミキシングの代表的な実験の一つであるFARO-L14の数値解析をおこなった。実験と比較すると計算結果では溶融物の落下速度がやや遅いが、従来の差分法などでは難しかった水中での溶融物の分裂過程をよく再現できた。

粒子法による溶融炉心-コンクリート相互作用の計算モデルの開発
関根 瑞恵、越塚 誠一、岡 芳明
原子炉のシビアアクシデントでは、溶融炉心が格納容器内のコンクリート床上に落下すると、コンクリートが溶融炉心によって侵食されると考えられている。これを停止させるためには、溶融物の上から注水するなどの手段により溶融物の崩壊熱を除去する必要がある。しかしながら、実炉相当の大規模な模擬実験をおこなうことは非常に困難であり、この現象を数値シミュレーションによって解析することが求められている。そこで、溶融炉心-コンクリート相互作用の粒子計算モデルを新たに開発し、これまでのMPS法に組み込むことで格納容器外の溶融炉心の挙動を解析する予定である。

WWWによる粒子法計算システムの開発
松浦正治、越塚誠一、岡芳明
数値流体力学は、流れの支配方程式をコンピューターを用いて数値的に解き、これを可視化することにより、流れの様子を調べるというものである。そのためにはグラフィックスの機能を備えた高速のコンピュータが必要であるが、こうした機能を有するコンピュータは限られたものである。そこで、WWWを利用することにより、計算を遠方の高速のワークステーションに行わせ、可視化された結果をブラウザ上で見るようなシステムがあれば、パーソナルコンピュータであってもウェブページを見るのと同様の簡単な操作で計算の実行と可視化ができる。本研究では、粒子法に対して上記のようなシステムの開発を行った。ウェブページに従って、入力条件をCGIを介して転送すると、可視化された計算結果がVRMLとしてブラウザ上に表示される。現在においては、通信速度などの問題点もあるが、計算コード利用の一形態として将来性があると考えられる。

「弥生」特性測定
岡 芳明、越塚誠一、斉藤 勲、岡村和夫、助川敏男、寺門 勉、貴家憲彦、間渕幸雄、仲川 勉
今年度は、NiワイヤとAu箔を用いて、FC内でXY方向(ビ−ム軸上とコラム最深部壁面)の中性子束分布測定を行った。

研究炉におけるオンライン化処理に関する研究
斉藤 勲、仲川 勉、岡 芳明
階層化している複合コンピュ−タシステムの中で、オンライン化処理の中枢である原子炉とのプロセス入出力を行うシステムの更新のために、新たなシステムを導入し、マルチタスキングと割り込み処理を中心とするソフトウエア設計を開始した。
システム移行は98年度中を予定している。