1. 序
物質表面及び内部界面(内部表面、結晶粒界、析出物界面、
セル構造など)の特徴を利用して、
照射下の欠陥形成とこれに伴う現象を
ミクロスコピックな観点から実験的に検討するとともに、
これを物質の照射損傷過程評価のための分子動力学的手法等の理論・
シミュレーション手段から得られる結果を検証する手法として
活用してゆくことを目的とする。
本研究では、従来より、
1) 照射下の原子はじき出しの異方性と点欠陥の形成効率、
2) 点欠陥の拡散の異方性、
3) 界面・表面における点欠陥消失及び照射誘起偏析に関する基礎的研究を
進めてきた。
平成9年度は、
イオン注入表面における欠陥形成を原子レベルで解析するために、
イオン加速器と高真空トンネル顕微鏡を組み合わせる装置の設計を行い、
その製作を進めた。
また、
イオン入射表面の硬化過程を表面に異方性をもつ六方晶金属である
ジルコニウム合金について検討した。
さらにイオン照射による表面硬化挙動の塑性変形エネルギー解析についても、
検討を行った。
2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)および今後の予定
1) 六方晶金属材料における表面近傍のイオン照射硬化の評価手法開発
MeV クラスのイオン照射を行った高純度ジルコニウム及び
ジルコニウムー鉄合金について、
極微小硬さ試験機によって測定用圧子の進入深さ 700 nm 一定として、
その表面近傍の硬化を測定した。
これによって、照射イオンによる損傷形成の深さ分布を考慮することなく、
各試料間の表面硬化過程について検討することができた。
また表面結晶方位の初期分布に基づく照射硬化の差異を
個々の結晶粒ごとに評価することによって、
六方晶の底面(0001)面上の転位ループ形成が、
鉄原子の添加によって促進されることがわかった。
さらに 300 ℃ では、500 ℃で の硬化量の照射フルエンス依存性の差異から、
鉄が主たる移動可能な格子間原子であることが導かれた。
2) イオン表面損傷の塑性変形エネルギーによる評価
微小硬度計における圧子の試料接触時からの変位変化を求め、
その微分値の変化を測定することによって、
真の塑性変形エネルギー変化を求めることができた。
この詳細については、有限要素法解析による検証を行った。
また、この手法を適用すれば、イオン入射面からの硬度測定によって、
イオン照射損傷の深さ分布評価できることが明らかにされた。
3. 発表論文リスト
(A) 学位論文等