1. 序
核融合炉・原子炉に代表される複雑な人工物は、
多くの異なる機能を有する材料を多数組み合わせて使用することによって
機能要求を満たしてゆく、材料システムと考えることができる。
14 MeV 中性子照射を伴う核融合炉環境は、
使用される材料にとってきわめて厳しいものであり、
これらに耐えて要求される機能を発揮しうる材料の開発は、
魅力的な炉実現のための核融合炉工学の中心課題となっている。
核融合炉第一壁及びブランケット構造材料の特性変化を定量的に評価し、
また、耐照射性に優れる材料設計を論理的かつ効率的に進めるためには、
材料のミクロな変化機構に基づいたモデル化を行うことが重要である。
本研究では、
原型炉用構造材料としての低放射化フェライト鋼の照射脆化基礎研究のために、
鉄基モデル合金を取り上げ、
中性子照射材およびイオン照射材に対する硬化の照射量依存性、
照射温度依存性に加え、照射速度依存性について調べ、
機構論的な照射脆化予測モデルについて検討した。
2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)および今後の予定
低合金鋼、そのモデル合金、及び純鉄に対して、重イオン照射を行い、
その表面硬化を超微小硬度計によって評価した。
その照射量依存性、照射温度依存性については、
既に広いパラメータ範囲での評価を行ったきた。
平成9年度はこれらに加えて、照射硬化の照射速度依存性について、
詳細なイオン照射試験による実験的検討を実施し、
照射速度の低い中性子照射試験と比較することによって、
鉄中の銅析出物形成による材料硬化過程に対する照射速度の影響を含んだ
モデルを構築した。
鉄−銅合金の硬化は純鉄と比較して大きく、
240℃では高照射量まで硬化が継続するのに対して、
290℃では高照射量で飽和する傾向がある。
これは、空孔によって運ばれる銅原子の集合体の核形成過程が、
290℃では高照射量まで継続しないことを示している。
240℃での高速中性子照射試料では、損傷量は小さいが硬化が明確に現れ、
また純鉄と鉄−銅合金の差が検出された。
この研究で利用した高速中性子照射による損傷速度は 2.5×10-9
dpa/sec、重イオン照射では 3.0×10-4 dpa/sec であり、
この違いが主として硬化を引き起こす銅集合体形成の形成過程に
影響していると考えられる。
銅集合体の形成は、空孔との銅原子位置交換による拡散促進モデルが、
銅集合体密度の照射量、照射速度、
及び照射温度依存性を最もよく説明すると考えられる。
これは上記のような、損傷導入速度の低い中性照射条件下にも適用可能であり、
照射脆化を物理的機構に基づいて予測することが可能であることを
示すことができた。
今後は、銅と他の合金元素の相互作用を加え、
格子間原子集合体の形成過程とこれによる硬化を取り込んだモデルへの拡張を行う必要がある。
3. 発表論文リスト
(A) 学位論文等