6

「高エネルギー粒子照射下その場観察法による材料ダイナミックスの研究」の 経過報告

テーマ代表者: 関村 直人 (システム量子工学専攻)

1. 序

 高エネルギー中性子の照射環境におかれる核融合炉材料は、 原子レベルの動的変化過程に基づいてミクロ組織が変化する。 このメカニズムを明らかにし、 材料挙動を定量的に予測するモデリングを確立するためには、 照射損傷基礎過程における原子的、 電子的エネルギー損傷と格子欠陥の形成の基礎過程からの評価が必要となる。 本研究では、 特に高エネルギーの一次はじき出し原子から始まるカスケード損傷に注目して、 一次はじき出し原子と見なしうる自己イオン照射試験を 重イオン加速器と透過型電子顕微鏡を組み合わせたその場観察装置によって 実施することによって、 一次はじき出し原子エネルギースペクトルに基づいた カスケード損傷の定量的解析を行うとともに、 カスケード損傷過程に基づいた動的な材料ミクロ組織変化を予測・ 評価するためのモデル化を行うことを目的としている。 特に、計算機シミュレーションによる研究としては、 分子動力学法によって得られる照射下材料内部の欠陥形成評価に基づいて、 その原子レベルの熱的拡散をモンテカルロ法によって、検討した。

2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)及び今後の予定

(1) カスケード損傷からの欠陥クラスター形成と自由点欠陥形成の 定量モデリング
 dpaは照射量の標準単位として合理的なものであるが、 照射による材料特性の変化とは直接対応するものではない。 したがって核融合炉材料の照射損傷を定量的に評価するためには、 実験的に困難な極短時間領域の欠陥形成の計算機シミュレーションを 実時間スケールのマクロな材料現象へ橋渡しするモデリングが必要となる。 本研究では、核融合炉材料の損傷初期過程のモデリングのため、 上記手法により得られた数十ピコ秒の間に形成される点欠陥が 自由点欠陥になる過程をモンテカルロ法を用いて計算し、 ミリ秒程度の時間スケールにおける十分な統計的精度を持つ自由点欠陥生成率、 再結合確率等を1次はじき出し原子エネルギー依存性として定量的に評価した。
(2) イオン加速器の現状と今後の方針
 400 kV 加速器はその加速電圧の維持、 イオン源と真空ビームラインの保守等に多大な労力を要するようになってきた。 200 kV 透過電子顕微鏡は、順調に稼働していることから、 イオン照射下その場観察実験の特色を生かした実験研究を 継続して実施してゆくためには、 この世界的に特徴をもつ実験手段を最大限に活用できる 新たな加速器への更新をこの2〜3年の最大課題として取り組んでゆかねばならない。

3. 発表論文リスト

(A) 学位論文等

  1. 田中 伸哉, 「基礎物性データベースによる材料設計手法」, 東京大学工学部卒業論文(1998年3月).
  2. 山口 博英, 「イオン照射した金属材料の欠陥集合体形成へのエネルギー付与密度効果」, 東京大学大学院工学系研究科修士論文(1998年3月).
(B) 国外学会誌等
  1. T. Muroga and N. Sekimura, "New Insights into Temperature Effects on Neutron Irradiation of Structural Materials", 4th International Symposium on Fusion Nuclear Technology (Tokyo, April 1997).
  2. N. Sekimura, Y. Shirao, H. Yamaguchi, S. Yonamine and Y. Arai, "Defect Cluster Formation in Vanadium Irradiated with Heavy Ions", 8th International Conference on Fusion Reactor Materials (Sendai, Oct. 1997).
  3. N. Sekimura, Y. Kanzaki, N. Ohtake, J. Saeki, Y. Shirao, S. Ishino, T. Iwata, A. Iwase and R. Tanaka, "High Energy Cascades as Studied by High Energy Self-Ion Irradiation", 8th International Conference on Fusion Reactor Materials (Sendai, Oct. 1997).
(C) 国内学会誌等
  1. 関村 直人, 白尾 泰之, 山口 博英, 「重イオン照射したバナジウム中のカスケード損傷」, 日本原子力学会(東京大学, 平成9年3月).
  2. 山口 博英, 白尾 泰之, 与那嶺 真一, 森下 和功, 関村 直人, 「重イオン照射によるバナジウム中での空孔クラスター形成」, 日本金属学会(東北大学, 平成9年9月).
  3. 森岡 智昭, 森下 和功, 関村 直人, 「計算機シミュレーションによるカスケード間相互作用と点欠陥挙動の研究」, 計算機シミュレーションによる粒子-固体相互作用研究会 (核融合科学研究所, 平成9年12月).
  4. 森岡 智昭, 関村 直人, 「モンテカルロ法による点欠陥挙動シミュレーション」, デザインウィンドウ評価のための実環境材料照射挙動モデル開発」研究会 (核融合科学研究所, 平成10年2月).
  5. 森岡 智昭, 森下 和功, 関村 直人, 「カスケード内部における点欠陥挙動のモンテカルロシミュレーション」 , (日本金属学会, 平成10年3月).

Last modified: Sat Sep 12 18:10:42 JST 1998