1. 序
我々のグループでは、従来から光学的な放射線測定手法について研究を進め、 その有用性を示してきた。 平成9年度は、光ファイバー中の放射線誘起損失量が、 可視領域よりも近赤外領域で非常に小さいという長所を活用する、 耐放射線性の高い放射線計測システムについて検討を行った。 また、 ラマン散乱型光ファイバー温度分布センサーの放射線環境への適用性を高めるため、 放射線照射時に生じる誤差を補正する手法について検討を行った。 補正を施すことにより、 放射線環境下での長時間の使用が可能となることが示された。
2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)
(1)近赤外発光を用いる高線量率領域用光ファイバー放射線分布センサーの開発
従来、放射線計測のためには、
可視域の波長のシンチレーション光が用いられて来た。
そのため、
近年開発が行われている光ファイバーを用いる放射線計測システムでも、
可視域の発光が用いられている。
しかし、光ファイバーに放射線を照射すると、
特に紫外〜可視の波長領域で非常に大きい放射線誘起損失が生じる。
そのため、これらの光ファイバー放射線計測法は、
高い線量率の場所へ適用することが困難であった。
そこで、本研究においては、
シンチレータ中に添加されている希土類イオンからの近赤外発光 (800 nm 以上) を
積極的に使用し、
従来よりも高い線量率の場所にも適用可能な光ファイバー放射線計測法を
開発することを目的とした。
Gd2O2S:Pr シンチレータからの 880-910 nm の発光について、
γ線照射時の線量率と発光ピーク面積の関係を調べたところ、
良好な線形性が確認された。
従って、このような長波長の発光を放射線計測へ適用することの可能性が示された。
また、
光ファイバーを介して測定される発光スペクトルを
γ線を照射しながら継続的に観測したところ、
600nm近辺の短波長側のピークが損失の影響で急速に小さくなったのに対し、
800 nm 以上のピークの大きさはそれほど影響を受けなかった。
この結果より、800 nm 以上の長波長発光を用いることは、
システムの耐放射線性の向上という点で有効であることが示された。
また、照射を継続していくと、
800 nm 以上の波長域でも損失が徐々に大きくなるという傾向が見られる。
そこで、より長期間の継続使用を可能とするため、
Optical Time Domain Reflectometry (OTDR) 法による損失の補正について検討した。
Co-60γ線源を用いる模擬実験の結果、
OTDR法の適用を行わない場合にはピーク面積測定結果が大きく影響を受けたのに対し、
OTDR法の適用により、ほぼ一定の測定値で推移することが示された。
従って、本補正法の妥当性が示されたということができる。
今回行った実験はγ線を対象としていたが、
シンチレータに中性子に有感な物質を含有させることにより、
核融合中性子の測定も可能となるものと考えられる。
また、高線量率の場所でも継続的にγ線量率の測定が可能であることから、
核融合炉プラント内での作業時の被曝低減にも貢献できるのではないか、
と期待される。
(2)ラマン散乱型光ファイバー温度分布センサー(RDTS)の放射線環境への適用
ラマン散乱型温度分布センサー(RDTS)は、
死角の無い温度の連続分布が測定可能であるという長所を有し、
従来の電気式の温度センサーには不可能なモニタリングを可能とする。
そこで、RDTSを高い放射線環境の場所へ適用するための研究を行った。
長期間の継続使用を可能にするため、
(1) 熱電対を併用する方法、(2) ループ型の光ファイバー設置を行う方法、
の2つの補正法について検討を行い、
γ線源を用いた実験によって可能性を実証した。
(1)の補正法は、対象とする光ファイバー上で、
温度、放射線がほぼ一様であることを前提としたものであるのに対し、
(2)の補正法では、これらが一様でなくとも十分に補正が可能である。
これらの補正法を適用することにより、RDTSは103〜104
Gy (SiO2)/hの場所でも
10年以上の長期間継続使用することができるものと期待される。
また、実際のプラントへの適用性を検討するため、
高速実験炉「常陽」の一次配管領域で約1年間の継続測定を行った。
常陽の出力上昇直後に損失が急激に大きくなり、
測定誤差も30℃程度に達したが、その後は損失が飽和傾向を示し、
誤差の大きさもそれほど変化しなかった。
また、上記の(1)の補正法を適用することにより、
誤差の大きさはかなり小さくすることができた。
この結果から、RDTSの実機プラントへの適用性が実証された。
核融合炉プラントでも十分に適用可能であるものと考えられる。
3. 今後の予定
長波長発光を利用する放射線計測法については、
イメージガイドを用いる離散型の分布測定の可能性を検討する予定である。
本手法を用いれば、核分裂炉であれば、
原子炉容器内を除けば
ほぼ全ての場所で光ファイバーによる放射線モニタリングが可能である。
今後、核融合炉プラントの放射線環境に関する情報を収集するとともに、
本手法の適用性を検討することが必要である。
一方、RDTSについては、一般的な線量率上限はほぼ確認できた。
従って、核融合炉プラント内での温度分布測定ニーズの調査を行うとともに、
線量率を勘案して適用可能性の検討を行う予定である。
4. 発表論文リスト
(A) 学位論文等