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「固気・固液界面における水素、水、イオン、粒子の吸着・脱離に関する量子化学 的検討」の経過報告

テーマ代表者: 長崎 晋也 (システム量子工学専攻)

1. 序

核融合炉システムの設計時に重要となる 核融合炉第一壁やブランケット材中の物質輸送は固気界面現象であり、 廃棄物処分の安全評価を行う場合に重要となる地下水中の物質輸送は 固液界面現象の例である。 物質輸送の多くは界面を通して起こるものであるが、 界面はダングリングボンドを有するなどバルク状態とは異なった特性を示すことが 予想され重要な研究課題と認識はされているが、 そこでの現象を in situ に実験的に解明することには困難を伴う。 この問題を解決する一つの方法に、 量子化学理論に基づく評価が挙げられる。 本研究では、量子化学計算を用いて、 固気あるいは固液での界面吸着現象の解明を行うことを目的としている。

2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)

平成8年度までは、 固液界面や固気界面での実験結果があり確証されている現象に 量子化学計算を適用して、 界面現象への適用可能性を示した。 本年度は、 実験結果を説明するために仮定されている現象 (すなわち、実験的にも理論的にも確定はしていない)である固体表面に 直接吸着している水分子の構造とその水分子と接触している水分子の構造の評価を 行い、 今まで想定されてきたように前者の水は氷状態を維持し、 固体から水分子1層離れただけでバルク水と同等になることを示すことができた。

3. 今後の予定

固体表面に吸着した水分子やイオンなどの吸着構造を 分光実験を通して検討するとともに、 その実験系に量子化学計算を適用することで、 分光実験により推定する吸着構造との比較を行い、 量子化学計算の信頼性を向上させるとともに、吸着構造自体も明らかにする。 具体的には、赤外分光実験やラマン分光実験により 水分子やウランイオンの固体表面への吸着構造を評価するとともに、 量子化学計算によってもそれらの吸着構造の最適化を試み、 両者の比較を通して計算の信頼性の向上と吸着構造自体の解明を行う。

4. 発表論文リスト

(A) 学位論文等

  1. 上原 光晶, 「ウラニルイオンと有機物との相互作用に関する量子化学的検討」, 東京大学工学部卒業論文(1998年3月).
(B) 国外学会誌等
  1. S.Nagasaki, Y.Umemura, M.Todoriki, S.Tanaka and A.Suzuki, "Binding Force between Clay Mineral and Water Molecules by Semi-Empirical Molecular Orbital Calculation", Material Research Society Symposium Proceedings, Vol. 506, pp.423-430 (1998).
(C) 国内学会誌等
  1. 梅村 康洋, 長崎晋也, 鈴木篤之, 「半経験的分子軌道法による粘土鉱物表面吸着水分子の結合状態計算」、 日本原子力学会「1997年春の年会」要旨集, L15, (1997) 564.
  2. 長崎 晋也、津島 悟、等々力 賢、田中 知、鈴木 篤之, 「分子軌道法によるリング状シリカの構造評価」, 日本原子力学会「1998春の年会」要旨集, L5, (1998) 589.

Last modified: Mon Jun 8 15:25:35 JST 1998