1. 序
本研究グループは、核融合炉におけるダイバータなどの例に見られるような、 複雑な形状における熱流動の数値解析手法の研究をおこなっている。従来の差 分法や有限要素法では、まず計算格子で計算体系をおおう必要がある。そのた め、3次元複雑形状に対しては格子生成が煩雑になり、近年では熱流動の計算 よりも格子生成の方が多くの労力を必要とするようになってきた。また、沸騰 などの相変化を伴う場合には、界面が複雑に変形するだけでなく、分裂や合体 が生じるため、従来の格子を用いる方法ではこれを解析することが難しかった。 そこで、本研究では計算格子を用いないグリッドレス法を開発する。グリッド レス法では計算点を任意の場所に配置し、計算点間のつながりの情報、すなわ ち格子としての情報を与えることなく方程式を離散化する方法である。これま では、最小二乗法を利用した方法が熱流動や構造の分野で提案されていたが、 従来の差分法などと比較して計算精度が悪かった。そこで、計算精度の高いグ リッドレス法を開発するとともに、完全ラグランジアンの計算手法である粒子 法とのハイブリッド化もおこない、汎用性の高い方法の開発を目指す。
2. 研究の進捗状況(装置の改良等を含む)
従来の最小二乗法に基づいたグリッドレス法では計算精度が悪かったが、本 研究では新たなグリッドレス法を開発し、これをMAFL (Meshless Advection using Flow-direction Local grid)と名付けた。この方法では、それぞれの計 算点ごとに局所的な格子を一時的に生成し、これに従来の高次差分スキームを 適用することで、計算精度を向上させている。生成する格子は一時的であるの で、流れ場全体をおおうような格子は必要ない。また、各計算点における局所 格子は、常にその計算点の持つ流速ベクトルの向きであるので、適用すべき差 分スキームは簡単な1次元のものでよく、そのため3次元化も容易である。純 粋な移流問題をテスト計算として解き、MAFLが従来の最小二乗法によるグリッ ドレス法よりも、はるかに精度に優れていることを示した。 計算格子を用いない数値解析手法として、本研究グループでは既に MPS(Moving Particle Semi-implicit)を開発している。この方法では、偏微分 方程式をこれと等価な粒子間相互作用に変換して計算をおこなうものである。 MPS法における粒子は流体塊としての性格を持ち、いわば流れに乗った計算点 である。これをラグランジュ的手法と呼び、界面の大変形や、分裂・合体を容 易に解析することができる。しかしながら、熱流動では流入や流出がある問題 が多く、こうした場合に粒子法では流入や流出の境界で粒子を発生あるいは消 滅しなければならず、かえって面倒である。一方、グリッドレス法は固定され た計算点に対する方法(オイラー的手法)であり、流入や流出を容易に扱える。 そこで、本研究では新たに開発したMAFLと粒子法であるMPSを合わせ、 MPS-MAFLを開発した。この方法では、流速とは独立に任意の速度で計算点を移 動させることができるようにしたもので、計算点を流れに乗せたラグランジュ 的手法としても、空間に固定したオイラー的手法としても用いることができる。 本手法を用いて、流入および流出境界を有する自由液面流れの解析をおこない、 液面の自励振動の発生領域に関して実験と良い一致を得た。さらに、様々に無 次元数を変えて単一気泡が水中を上昇する解析をおこない、実験結果と対応し た円形、楕円形あるいはキャップ形などの気泡形状が得られた。
3. 今後の予定
核融合炉の冷却システムとして、高熱負荷条件下では沸騰熱伝達によって効 率良く除熱をおこなうことが考えられているので、今後は、本研究で開発した MPS-MAFLを沸騰を伴う二相流の解析に適用していく予定である。
4. 発表論文リスト
(A) 学位論文等