UTNL-W-0007J
Section 2.6

2. 研究活動

2.6 ブランケット管理部

(1) 構成

助教授 山口 憲司
助手 小野 双葉
外国人特別研究員 Bousniouk, Andrei (1998年12月27日〜)
受託研究員 垣内 一雄 (1998年8月1日〜1999年3月31日)

(2) 研究活動

仕事関数測定による固体増殖材表面への雰囲気効果に関する研究

山口 憲司 (研究協力者; 横田 敏彦, 鈴木 敦士, 山脇 道夫)

次世代のエネルギー源として開発が進められている核融合炉において燃料サイクルの確立することは非常に重要であり、固体増殖材料の中でも、特にリチウム系セラミックスはトリチウム増殖ブランケット材料として注目されている。スイープガス中に水素を添加することでブランケット材料からのトリチウムの回収速度が増加されることが報告されているが、リチウム系セラミックスの表面はスイープガスにより欠陥の生成/消滅、あるいは気体分子の吸着/脱離といった影響を受ける。トリチウムの回収効率を向上させるためにはリチウム系セラミックスの表面とスイープガスとの間の相互作用のメカニズムを解明することが必要であり、本研究室では高温かつ雰囲気制御下で"in-situ"に測定できる実験装置『高温ケルビン計』を導入して、リチウム系セラミックスの仕事関数に与える雰囲気効果の実験および研究を行っている。今年度は、Li2O を取り上げたが、酸素分圧の変化に伴う仕事関数の変化は、これまでに取り上げた材料と比較すると小さいことが分かった。

Measurement of Work Function Change under Irradiation

K. Yamaguchi (in collaboration with G. N. Luo, M. Yamawaki, K. Hayashi (JAERI))

The breeding blanket is a key component of the fusion reactor since it involves tritium breeding and energy extraction,both of which are critically important for the development of fusion power.Lithium ceramics have long been considered as attractive materialsfor breeding blanket due to their excellent tritium release,thermal stability and chemical inertness.In practice,blanket is subject to high energy neutrons and energetic particlesfrom nuclear reactions.Tritium release from lithium ceramics under irradiationis one of critical issues of current interest,and the understanding is very limitedabout the details of the processes.In some cases where desorption is the rate-determining stepin tritium release,the surface properties of lithium ceramics may play an important rolein the processes.Thus there are practical needs to study the influence of irradiationon the surface status of lithium ceramics in reactor and in laboratoryusing various kinds of irradiation sources.

As the first step,a new facility was designed which would combine together a Kelvin probe,an ion beam source, a sample holder with a heater,ports for an AES/LEED analyzer and a QMS, if necessary. The Kelvin probe is well-known for the measurement of work functionthat is extremely sensitive to the change of surface state of materials,i.e., chemical composition, electronic structure and crystal orientation,etc..The ion beam source and the sample holderwith heater ensure the possibility of performing the researcheson the effects of ion beam irradiation on the surface propertiesat elevated temperatures.

仕事関数測定による燃料被覆管表面の酸化過程に関する研究

山口 憲司 (研究協力者; アフマド・デスリアント, 鈴木 敦士, 山脇 道夫)

金属材料が高温で実際に使用される環境は非常に複雑であり、高温機器に使用される金属材料には主として高温強度と耐高温腐食性が要求される。腐食の問題に関して、従来は電気化測定法や重量減少測定法などの手法がよく用いられてきたが、1980年代後半にはケルビン(Kelvin)法が当該分野の研究に導入されるようになった。本研究では、さらに、高温における新しい仕事関数測定手法である「高温ケルビン計」を適用を試みた。従来の電気化学測定法では高温酸化雰囲気(乾燥雰囲気)条件の下における表面電位測定が困難であるため、この高温ケルビン法が腐食を被る界面の電位測定に適していると期待している。

本研究では、水冷却型原子炉の燃料被覆管材料として知られ、良好な耐熱性や耐食性の性質を有するジルコニウム系合金を取り上げている。実験では、高温ケルビン計を用い、白金(Pt)を参照電極として、まず、高温における気体雰囲気中でのジルコニウム(Zr)電極との間の接触電位差 (CPD; Contact Potential Difference) を測定し、気相中の酸素分圧の変化による影響を検討した。室温から高温にわたって接触電位差が増加することが測定され、このCPDの増加は雰囲気ガス中の酸素により Zr 表面が酸化されたためと考えられる。実際、Zr表面に黒い色の酸化皮膜が生成しているのが目視でも確認された。酸素分圧の増加とともにCPDは急激に増加するのに対し、酸素分圧が減少するとCPDも減少する。その急激な変化の原因としては、Zr表面が酸化する過程で生成した酸化皮膜において、酸素空孔が生成・消滅したためであると考えている。

原子状ビーム源によるプラズマ-材料相互作用の研究

山口 憲司 (研究協力者; 大越 啓志郎, 遠田 俊一, 志村 憲一郎, 山脇 道夫)

核融合炉におけるプラズマ排気から水素同位体の精製を行うメンブレイン・ポンプが提案されている。分子状水素の熱解離・原子化は、メンブレインにおける水素の選択的透過性および透過速度を著しく向上させるとされる。超高真空実験装置に導入された原子状ビーム源を用いて、メンブレイン候補材料である高純度 Nb 膜試料への重水素原子ビーム注入実験を行った。1100 - 1050 K にて良くアニールされた試料表面のオージェ電子分光法による表面分析では、40 % 程度の硫黄の偏析が観察された。実験 I では、試料温度を 900 K にて一定とし、原子化ノズル温度の制御により解離率を 0 から 1 まで変化させ、試料膜からの透過速度の変化を見た。原子化率の上昇とともに透過率は単調かつ急激な増加ののち飽和に達する様子が確認された。これは水素分子に比較し原子の吸収特性が極めて高いことを示し、実用上は粒子加速の必要なく入射粒子の解離によって大きな透過率が得られることを示している。透過率-温度曲線と解離率-温度の理論曲線の傾向の整合性が確認された。同時に、原子状ビーム源の安定な運転条件が確定された。実験 II では、温度 700 K および 900 K 試料への長時間連続ビーム注入実験を行い、両者ともに 5-7 % 程度というほぼ同じ値の透過率が得られた。輸送機構の相違にも関わらず、結果的にはイオン駆動透過と同等の温度傾向が示唆された。800 K および 700-500 K 領域での詳細な透過特性の評価、上流側への酸素導入といった今後の課題が確認された。

プラズマ対向材料における水素同位体保持に関する研究

山口 憲司 (研究協力者; 尾上 修, 山脇 道夫)

トリチウムビーム試験装置(TBTS)を用いて、トリチウムを含む水素同位体ビームで照射し、昇温脱離法(TDS)により、Mo中での各水素同位体の保持量を評価し、また、簡便な計算モデルを作成し実験結果と比較することにより、水素同位体の昇温脱離挙動を検討した。その結果、Moへ注された水素同位体の昇温脱離過程においては複数の脱離ピークが観測され、保持能の異なるサイトが存在することが示唆された。また、軽水素は入射フルエンスが 8.1 × 1019 H m-2 で保持量が飽和する傾向にあるが、重水素は同じフルエンスでも飽和する傾向になかった。さらに、重水素イオンビーム中のトリチウムの保持量に関して、重水素の保持する割合は混合水素同位体ビームのフルエンスが小さい時は重水素の方が保持量が大きいが、フルエンスが増加すると、トリチウムの保持される割合が増加する傾向が見られた。一方、計算により、実験で使用しているポンプの実効排気速度は分圧測定からの脱離スペクトル解析を行う上で十分な大きさを有することは確認したものの、昇温脱離スペクトルで見られた複数のピークの存在、脱離ピーク温度のフルエンス依存性などの特徴は、再結合-拡散のみを輸送過程とするモデルでは十分に説明できなかった。

Study of plasma-driven superpermeation

A. Bousniouk, K. Yamaguchi (in collaboration with M. Yamawaki)

The purpose of the researchis to investigate various aspects of the plasma-driven superpermeation, focusing main attention on the particular roleplayed by the surface facing the plasma,using a plasma device installed with "superpermeable" membrane system. The main research tasks are as follows:

The results of these researches may be particularly importantfor applications in fusion as well as in plasma-chemical technologies.All these experiments will be carried outwith Plasma Membrane Test Devise (PMTD), which is specially designed in Russia and shipped to Japan in FY1998.Now the designing of a scheme of the PMTD periphery system andits components is finished. After preliminary procedures (assembling, checking for leaks, baking), first experiments will be conducted.

トリチウムによる汚染とその除染に関する研究

小野 双葉 (研究協力者; 山脇 道夫)

トリチウム取扱装置などでトリチウムガスあるいはトリチウム水蒸気の供給から回収または廃棄までの一連の操作を行うと、配管材料や測定機器の内壁などには必ずトリチウムの吸着(付着)が起こる。この際、吸着したトリチウムは表面に残り材料などに汚染をもたらす。この汚染の度合は材料の種類、表面状態および取扱い時の真空度などで大きく異なり、キュリー(Ci)オーダー以上の取扱においては、より深刻な問題になることは良く知られている。吸着トリチウムによる材料の汚染やその除染、あるいは吸着トリチウムの再放出等に関する問題は、環境安全あるいは安全取扱上のみならず、測定精度への影響、計量管理上からも重要である。これまでのトリチウムの吸着・脱離研究をさらに踏み込んで、各種材料へのトリチウムのトラップメカニズムを明らかにすることを目的として計算・実験などによる検討も行う。

消滅処理炉用ターゲット燃料の開発に関する基礎研究

小野 双葉, 山口 憲司 (研究協力者; 中園 祥央, 山脇 道夫)

現在、原子炉から出る核廃棄物の中には高レベル放射性廃棄物が存在し、全廃液中の約 3 % を占める。その中には半減期 200 百万年以上の Np-237 などの長寿命放射性核種であるマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる元素が含まれている。現在、政府は、これらの長半減期放射性核種はガラス固化体と呼ばれる固体に閉じ込め、地中深く厳重に保管する方針である。しかし、このような長期間、保管するのは非常に困難であるため、他の安全な元素に核変換したり消滅させたり(消滅処理)するほうがより安全な方法であるといえる。一方、Th を変換し核燃料である U-235 や Pu-241 にすることが可能である。Th は地球上に豊富に存在するので、これにより燃料開発の新分野を開拓し、エネルギー問題に1つの新しい展望を示すことができると期待している。半面、Th についてはその化学的性質はあまりよく知られていない。そこで我々は水素化物をターゲット燃料として利用すべく、水素吸蔵合金を用いて世界初となる長半減期放射性核種消滅処理用の燃料開発を目指している。水素吸蔵合金によるこの方法では、高速炉内の高速中性子の利用により水素吸蔵合金中の長半減期放射性核種を消滅させる。現在開発中の他の方法に比べて、消滅効率が 3 倍以上になると目されている。長半減期放射性核種である Np-237 や Am-241、Am-243 と化学的性質が似ているとされる Th を用いた水素吸蔵合金を日本原子力研究所の材料試験炉(JMTR)内で、現在照射試験中である。水素吸蔵合金を用いた消滅処理は原子炉内の豊富な中性子を利用するので経済性が高く、また、減速材である水素を燃料中に含むので、ドップラー係数、ボイド率の低下による原子炉の安全性の向上が期待される。本年度は、U-Th-Zr の水素吸蔵合金を作成し、その熱的特性に関する各種試験に着手した。具体的には、熱膨張率、比熱、熱拡散率、熱伝導率などの測定や、示差熱分析などを行っている。

新型 BWR 水素化物燃料の製造ならびに物性評価

垣内 一雄, 小野 双葉, 山口 憲司 (研究協力者; 中園 祥央, 山脇 道夫)

BWRではチャンネル内で冷却水が沸騰することから、十分な減速材を確保するために炉心中のウラン量が制限されることがあり、また、ボイド率の大きい炉心上部では十分な減速が確保できない場合があり得る。ハイドライド燃料(U-ZrH1.6)は、燃料自体に減速材である水素を含むことから、この燃料をBWRに適用できれば炉心上部でも高い熱中性子束を得ることができ、出力分布の平坦化、燃焼の均一化等の性能向上の可能性が期待できる。このような背景に基づいて、現在、研究室では、ハイドライド燃料(45 % U-ZrH1.6)の製造性、物性評価を行い、ハイドライド燃料のBWR適用可能性の検討に関する研究を行っている。

Na Fe複合酸化物の合成と物性測定

小野 双葉, 山口 憲司 (研究協力者; 利根川 雅久, 山脇 道夫)

高速炉の冷却材であるナトリウム(Na)が大気雰囲気で漏えい燃焼した場合、鋼鉄製周辺構造材料の腐食は、Na酸化物と構造材料中の主要元素である鉄(Fe)の複合酸化物形成によって進行する場合が多い。このため、腐食機構の詳細な解明や、腐食の抑制及び防止対策を効果的に施すためには主要な Na Fe 複合酸化物の化学熱力学的データを整備することが必須である。しかし、NaFe複合酸化物は、ー般に酸素や湿分の影響を受け易く、これまでの技術では信頼性の高い化学熱力学的特性値の整備が困難であった。文献調査でも複数の研究結果は互いに整合したものは少なく、むしろ相矛盾したものが多い結果となっている。本研究は、短期的には主要なNaFe複合酸化物である Na4FeO3など各種の Na-Fe 複合酸化物の合成と合成した Na-Fe 複合酸化物について種々の熱力学的特性を整備すること、中長期的にはNa化合物を取り扱う化学熱力学計測技術を確立し、信頼性の高い標準データの提供を可能とすることを目的としている。