UTNL-W-0007J

巻頭言

主任教授 勝村 庸介

本年報は東京大学工学部附属原子力工学研究施設の平成 10 年度における研究教育活動、研究設備の運転状況などについてとりまとめたものである。本施設の大きな研究装置には、高速中性子源炉「弥生」、電子ライナック、核融合ブランケット設計基礎実験装置、重照射研究設備 (HIT) の 4つがあり、それらを用いて原子力工学の広い分野にわたる教育と研究を実施するとともに、前二者は全国大学共同利用、ブランケットは工学部内の、HIT は原子力研究総合センターを通じて学内の共同利用に供している。これら 4 つの装置は現在いずれも活発な利用が続けられ、その研究の成果は、各々の成果報告書にまとめられているので、この年報ではこれらの装置の平成10 年度の管理運用経過のみを述べる。

平成 10 年度予算成立に伴い、本施設は平成 10 年 4 月 9 日に従来の工学部から工学系研究科に所属名が変更となり、東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設となった。直後の 4 月 17 日にはライナック装置の 20 周年の記念行事を開催した。文部省研究機関課から角田賢次研究所第二係長、中島尚正研究科長、本部および工学部事務関係者をはじめとし、ライナックの産みの親とも言うべき本施設の名誉教授 (元原子力委員) である田畑米穂先生やこれまでのライナックの活動に深く携わってきた方々に列席いただき、これまでのライナックを利用した研究活動をふりかえるとともに、今後の発展の決意を披露した。

本施設を支えている教職員数は全体で 47 名で、うち半分 (21 名) は非常勤の職員になっており、非常勤の職員なしでは活動を維持できない。一方、平成 10 年度に本施設の研究部門に所属した学生は博士課程 24 名、修士課程 24 名、卒論生として学部学生 6 名の計 54 名であった (平成 10 年 4 月 1 日現在)。また、うち外国人留学生は 10 名で国際化の傾向も顕著である。さらに、平成 9 年度より発足した機関研究員制度を利用して 6 名が非常勤講師として研究に参加している。うち 5 名は外国人研究者である。その他、非常勤講師、受託研究員の各 2 名を合わせると、総勢 110 名が日夜活動している事になる。本年報では教職員の研究成果とともにこれらの学生の研究活動および学位論文・卒業論文の内容についてもまとめている。その研究は、施設内の大型研究設備を用いた研究を中心としつつ、原子力工学の最先端や新分野を切り開くことを目指すものであり、核融合炉第一壁工学、核融合炉燃料サイクル工学、超電動工学、電磁構造工学、熱流体工学、数理情報学、量子ビーム工学、新型炉設計などである。

平成 10 年度は既に連絡を受けていたように施設運営経費が 15% の削減を受けた。一方、新時限部門設立に対応した装置購入費、補正予算等でこれまで提案していたフェムトプロジェクトの経費が認められた。また、施設教官が中心になった未来開拓事業研究プロジェクトも採択され、台所事情の苦しい中での朗報であった。

本施設は大型設備を保有し研究活動を行っているが、昨今の省庁統合や、原子力研究の再編等の議論があるなかで、将来計画について議論を重ねてきている。こうした議論の過程あるいは研究成果は原子力の分野にとどまらず広く世に問う必要があるとの考えから、「核エネルギーシンポジウム」の定期的な開催を実施している。21世紀を目前に控え、新しい時代に相応しい組織、機構の議論も始まった。これらの状況を十分勘案すると共に、今後とも大学の原子力研究に相応しい活動を実施してゆきたいと考えている。

本年報にまとめたように、施設の活動は着実に成果を上げつつある。これは本施設教職員、学生の精進の成果と自負するところであるが、同時にご高配いただいている文部省、工学系研究科長、両評議員、ならびに協議員を始めとする工学系研究科の諸先生、さらには様々なご協力をいただいている運営委員会委員、日本原子力研究所の各位のご厚情、ご指導の賜物であり、ここに厚く御礼申し上げる。