UTNL-W-0007J
Section 2.1

2. 研究活動

2.1 原子炉本部研究部門

(1) 構成

教授 班目 春樹
助教授 岡本 孝司
助手 鶴 大悟
研究機関研究員 高木 敏幸
受託研究員 二木 正一郎
協力者 助川 敏男(当研究施設技官)
大学院生
博士課程3年 佐伯 壮一
2年 ビストリツェアヌ ミハイ、池田  耕、松山 敬介
1年 馬場 昌法
修士課程2年 田中 源太郎、櫻井 克巳、守矢 豊
1年 佐々木 俊武、徳田 剛、中務 貴之
学部学生4年 秋山 寛、田原 和彦

(2) 主な研究活動

噴流による自励スロッシング

佐伯 壮一、ビストリツェアヌ ミハイ、佐々木 俊武、岡本 孝司、班目 春樹

FBR実証炉設計では経済性を高めるため、炉容器やIHX容器をできるかぎり小型化することが要請されており、容器内の冷却材流速は高速化する。この容器内流れが非常に速くなると地震時のスロッシング挙動に影響を与えることは従来より知られていたが、我々は条件によってはスロッシングが外的変動荷重ではなく定常流によってエネルギーを供給され、自励的に成長することを発見した。このような現象はもし実機で発生するとプラント運転性能へ多大な影響を与えるものであり、あらかじめ十分な検討が必要である。

自由液面を扱う事のできる数値解析コードを開発し、自励スロッシングを模擬することが出来た。振動現象の模擬には、液面を正確に模擬する必要がある。このため、BFCとALEという2種類の異なったコードを用いて解析を実施した。いずれの手法によっても、自励スロッシングを正確に模擬することが出来た。この解析コード上の自励スロッシング現象に対して、発生メカニズムモデルを適用し、モデルの有効性について確認を実施した。その結果、振動発生条件の液位依存性を数値実験により確認できた。

もぐり込み噴流によるスロッシング

馬場 昌法 、岡本 孝司、班目 春樹

噴流が瀧のように液面に向かって流れるような条件においても上記の自励スロッシングと似た現象が発生することを世界で初めて報告した。この現象に対する容器形状の効果について実験的に検討を実施するとともに、噴流の不安定性に基づくモデルを構築し、振動現象の発生機構に対して説明を行うことを試みている。

自励マノメータ振動

守矢 豊、佐伯 壮一、岡本 孝司、班目 春樹

2つの自由液面を有する体系において、マノメータ振動が流れによって誘引される事がある。この振動現象のメカニズムはまだ良く判っていない。本研究では、この振動現象を2次元数値シミュレーションコードによってシミュレートし、コンピュータ上で現象を再現するとともに振動現象のメカニズム解明に向けた検討を推進している。

狭流路を介しての密度差置換流の研究

鶴 大悟、岡本 孝司、班目 春樹

高温ガス炉のスタンドパイプが破損するとヘリウムガスの流出・内圧低下に続いて外部空気とヘリウムガスとの密度差による置換が起きる。このような狭流路を介しての密度差による置換の律速条件について基礎的実験を行っている。流路が単一であると流路長/流路面積の増加につれ置換速度はまず増加しその後減少することが知られていたが、流路が2つの場合は単調に増加することが確かめられた。可視化による流れ場の把握によって、2つの流路内において、2種類の流体のもぐり込み、巻き込みといった現象が発生している事が確認できた。その結果、もぐり込み、巻き込み現象が交換速度を大きく支配している事がわかり、これらの現象に対するモデル化を実施している。さらに、これら二流体の混合現象を把握するための、新モデルを用いた数値計算コードを開発している。

プラズマディスラプション時の第一壁の挙動に関する研究

徳田 剛、助川 敏男、班目 春樹、岡本 孝司

核融合炉第一壁はディスラプション負荷によって損傷していく。しかしながら、従来のレーザや電子ビームを用いた研究ではプラズマと飛散した黒鉛粒子との相互作用を考慮していないため、損傷の割合は過大な見積りとなっている可能性がある。そこで、MPDアークジェットを用いる実験を行う事によりプラズマと飛散した黒鉛粒子との相互作用を考慮することができる。飛散した黒鉛の振舞をスペクトロスコピー法によって調べ、模擬ディスラプション時の黒鉛および炭素イオンの挙動を明らかにする実験を行っている。その結果、飛散した黒鉛の空間的、時間的スペクトル分布を得る事ができ、これによりプラズマと飛散粒子との相互作用を評価する事ができる。

PIV標準画像に関する研究

岡本 孝司

画像処理による流速測定法である粒子画像流速測定法(PIV)について、そのアルゴリズム検証のため、正解の判っている既知の画像を提供する。LESの結果を用い、仮想粒子を流すことにより、2次元標準画像、3次元標準画像、過渡3次元標準画像などを構築した。これらは、ホームページを通じて世界中で利用されている。

画像処理による流速分布測定法の開発

高木 敏幸、岡本 孝司

画像処理による各種物理量分布の測定手法は、物理量の空間分布、時間変化を算出することが可能であり、従来からのプローブを用いた点計測に比較して優れている。

流速測定手法として、粒子クラスタのパターンマッチングをベースとした新しい粒子移動追跡アルゴリズム(Spring Model)を提案し、その有効性に関して検討を実施している。このアルゴリズムを3次元流速測定に適用し、より精度の高い計測を実施できる事を示した。さらに、精度を上げるために、時間軸方向の情報を利用し、過誤ベクトル除去などの操作を実施する手法を提案した。その結果、従来の手法では計測が困難であった流れに対しても、精度良く流速分布を算出できる事を示した。

干渉画像データからの三次元密度分布計測

高木 敏幸、岡本 孝司、班目 春樹

気体の密度分布は、干渉画像とトモグラフィー技術を用いて測定することができる。従来は、測定値の精度を向上させるためには、複数の角度から撮影された数多くの干渉画像が必要であった。本研究では、少数の干渉画像での精度を向上させるため、遺伝アルゴリズムを利用した新しいトモグラフィー手法を提唱する。一般に、密度分布は三次元であるのに対して、干渉画像の情報は二次元である。本研究では、層状流れの特徴の情報でこの情報量の不足を補うこととし、(1)測定対象が主として拡散現象支配であると仮定して、(2)密度分布を素密度分布の組合せで表すこととした。これによりトモグラフィーは素密度分布の組合せの最適化に帰着する。最適化手法として、遺伝アルゴリズム(GA)を導入した。本手法に対して、シミュレートされた干渉画像を利用した検証を行ない、良好な結果を得た。

カオス挙動に関する研究

松山 敬介、岡本 孝司、班目 春樹

支配方程式が単純でかつ確定系であるにもかかわらず、完全に周期解とならない振動系の挙動が、近年数多く報告されている。最近非常に注目されているカオス問題とも関連し興味の尽きない問題である。非線形振動系において分岐現象、分数調波振動といった線形系に見られない様々な現象が発生することが知られている。ピストンの位置によってシリンダー内のガスの流入出が切換わる体系において、ピストンの動きを四つの支配パラメータを持つ線形モデルで近似した。パラメータの値によってはガス流入出の切換えサイクルがカオス的に振舞うことを発見した。このカオス的挙動に対し、理論的考察を試みている。

自由液面乱流と高分子

田中 源太郎、岡本 孝司、班目 春樹

自由液面は境界自体が移動する事から、非線形性の強い境界となっている。このような境界における乱流と自由液面の相互作用を計測した例はいままでに全く報告されていない。自由液面乱流における境界条件を決定するためには、これらの相関量を把握する事が必要である。このため、画像処理を行う事により界面挙動と流速測定の同時測定を試み、界面と乱流との相関量を計測することを試みている。その結果、乱流量と界面乱流量の相関を明らかにする事ができた。これらの結果を元に数値解析を行い、モデル化を推進している。

また、流体中に高分子を混入する事によって、剪断摩擦を低減し、損失を減らす事ができる事が知られている。従来の研究は、いずれも流体と壁面との摩擦損失に着目し、その効果を評価したものである。我々は流体・気体界面における高分子の損失低減効果に関する研究を実施している。このような界面は移動境界となるため、従来の固定境界とは全く異なった挙動を示す。ガス噴流および水(高分子溶液)噴流実験によって、自由液面近傍における乱流挙動を計測した。その結果、高分子によって、界面乱流が抑制される事を定量的に示す事ができた。

ホログラフィックPIVの開発

池田 耕、岡本 孝司、班目 春樹

流れの3次元挙動を把握するために、粒子画像流速測定法が開発されている。従来の手法ではステレオカメラによって3次元情報を得ていたため、情報の密度が非常に薄く、1000個程度の粒子情報を得るのが精一杯であった。これに対し、ホログラムを用いて3次元情報を計測する事によって、一度に 100万個の情報を得る事が可能である。本研究においては、ホログラム上に粒子の情報だけではなく、空間の密度分布の情報も記録される事を応用し、HPIVによって密度と速度の同時計測を実施する手法を開発している。

電気粘性流体の可視化

中務 貴之、岡本 孝司、班目 春樹

電気粘性流体(ER流体)は電界を印加することにより, 流体の見かけ上の粘度を可逆的に変化させることのできる流体である.この性質はER効果と呼ばれている.電界を印加することによって流体中の粒子が分極し, 静電気力によって粒子同士は互いに引き付け合う.その結果, 極板間には鎖状構造が形成される.これが流動抵抗となって見かけ上, 流体の粘度は増加する.本研究では、このER流体の挙動をレーザーシートによって可視化しその挙動を解析した。その結果、従来報告されていない堆積層の形成を発見し、その挙動が流体の挙動に大きく影響することを明らかにした。また、堆積層の発生機構に関して、議論を行い流体力と静電気力の比によって説明できることを示した。