UTNL-W-0007J
Section 2.2

2. 研究活動

2.2 原子炉機器工学研究部門

(1) 構成

教授 宮 健三
助教授 吉田 義勝
非常勤講師 ミラノビッチ プレドラッグ
助手 出町 和之
大学院生
博士課程3年 ギラーニ アティラ、 内一 哲哉、陳 振茂、 羅 雲
2年 ポパ ラドゥ クリスチャン、マイケル ラバラ
1年 福崎 康博、程 衛英、ミハラケ オビドュ
修士課程2年 高瀬 健太郎、 中山 匡
1年 山田 智海、 新藤 理
学部学生4年 杉山 隆浩、 遊佐 訓孝

(2) 主な研究活動

高温超電導磁気軸受の交流磁場下における浮上力特性

新藤 理、高瀬健太郎、出町和之、宮 健三

高温超電導磁気軸受の運転時において、不均一な磁化分布を持つ永久磁石が高速回転することにより超電導体上には交流磁場が生じることになる。この交流磁場はローターの浮上力劣化といった交流損失を招く。本研究ではまず、超電導表面における交流磁場の及ぼす影響について評価するために磁束量子の挙動に基づく数値解析手法であるBFD(BundledFluxoid Dynamics)法を開発し、交流磁場の振幅、周波数とその侵入深さとの関係を調べた。また、交流磁場をコイル電流による磁場で模擬することにより交流磁場による浮上特性劣化の測定実験を実施した。この実験結果と磁束フロー・クリープモデルに基づいた超電導遮蔽電流解析コードによる計算結果との比較により計算手法の妥当性の検証を行なった。更に磁気軸受における浮上特性の劣化を抑制するために予荷重を加えるシナリオを提案し、その効果を評価するために先の コードで数値シミュレーションを行ない、評価した。その結果から予荷重負荷運転を実行した場合、そうでない場合に比べて浮上力減衰が劇的に抑制されることが分かった。

高温超電導フライホイールにおけるAC損失の評価

沼田 龍介、清水 良太、出町 和之、宮 健三

高温超電導体をエネルギー貯蔵フライホイールに適用する際、現在最も重要な課題の一つが不均一な残留磁化分布をもつ永久磁石が回転することによりに生じるAC損失の低減である。本研究においては、高温超電導フライホイールの遮蔽電流解析コードを永久磁石の不整磁場と回転運動を考慮し改良することにより、AC損失の解析的な評価手法を開発した。また、その解析結果と実験値との比較によってコードの妥当性を確認した。さらに、上記のコードを用いてフライホイールの運転履歴および永久磁石の種々のパラメータに対するAC損失の依存性を検証した。その結果、(1)初期浮上力、不整磁場波数、不整磁場振幅が大きくなるに従いAC損失が増大する、(2)AC損失は初期浮上力に対しては直線的に、不整磁場波数に対しては指数関数的に増加する、という知見が得られた。今年度は更に解析手法の汎用化を推進し、高温超電導フライホイール実機の設計に有用なコードの開発を行う予定である。

Bi系超電導テープの電磁-機械的挙動の解析

ラバラ マイケル、宮 健三

高温超電導線材実用化の可能性を探るため、高温超電導体の中で実用化に近いとされるBi-2223 高温超電導線材に着目し、その電磁及び機械的特性を評価した。Bi-2223線材の場合、線材の諸特性の中でも特に重要である臨界電流密度は、複雑な温度、印加磁場等の様々なパラメータに対する依存性をもつ。これは、線材導体部の結晶構造及び磁束量子の準2次元的な振舞いという中間視的物理に起因するものである。そこで、特性評価を適切に行うため、実験的評価とともに超電導線材の中間視的観点に立脚した理論的考察を併せて行った。

本研究の結論は、

  1. 平面型と円柱型の2種類のピン止め中心を導入し磁束量子との相互作用を考えることによって、電流-電圧特性の理論式を求めた。また、実験結果との比較により、本理論式の定性的妥当性についても確認した。
  2. 臨界電流密度の温度依存性について 12 T スプリット磁石を用いて実験的に調べ、Jcと B の間の対数的な関係を明らかにした。また、不可逆磁場曲線についても測定および理論的考察を行なった。その結果、不可逆磁場と温度の関係が、印加磁場の強さにより2領域に分けられることを示した。さらに、実験結果との比較により、理論的考察の裏付けを得た。
  3. 臨界電流のヒステリシスについて測定実験を行い、磁場の垂直成分のみに依存することを明らかにした。
  4. 超電導テープ内のBi-2223がセラミックスであるために機械的な荷重に対して敏感であり、曲げ歪みε = 0.4 % のレベルを越えると、不可逆的な破壊が超電導結晶に生じ、臨界電流の低下が顕著となることがわかった。

高温超電導体における非CuO_2面内の電荷分布による影響のt-Jモデルに基づく評価

高瀬 健太郎、高屋 茂、宮 健三

本研究では、非CuO_2面に結晶場の乱れなどによる電荷の不均一性があった場合に生じるポテンシャル場が、超電導性に重要であるCuO_2面上の電子に及ぼす影響の評価を行った。高温超電導体の物理特性を記述できるとして研究されているいくつかのモデルの中からt-Jモデルに着目し、t-JハミルトニアンにCuO_2面に生じたポテンシャル場を表す項を摂動として加えた新しいハミルトニアンを提案した。このハミルトニアンの基底状態から50個の固有エネルギー及び固有状態を調べたところ、摂動を加えることにより系の並進対称性がなくなり固有エネルギーの縮退が解ける様子が確認された。また超電導性の目安のひとつである正孔間の束縛エネルギーを、様々な形のポテンシャル場について計算したところ、全ての場合について束縛エネルギーが小さくなることが明らかになった。これはポテンシャル場が超電導性に不利に働く可能性があることを示し、応用上の観点から非CuO_2面における結晶場の乱れは出来る限り避けるべきであることがわかった。

磁束量子動力学法による高温超電導体磁化の評価

杉山隆浩、出町和之、宮 健三

そこで本研究室で開発されている高温超電導体用磁束量子動力学法(HTSC-FD法)に改良を加え、高温超電導体磁化の評価を行った。具体的には、(1)表面でのパンケーキ磁束(量子)の侵入・排出、(2)表面バリアモデルに基づく鏡像パンケーキ磁束、逆向きパンケーキ磁束、(3)熱揺らぎに起因する磁束クリープ現象、等の効果をFD法に導入した。 この改良HTSC-FD法を用いた数値解析を実施し、高温超電導体の磁化の評価を行なった。解析対象としてBi2212 単結晶をとりあげ、ピンニングセンタは重イオン照射による円柱状欠陥を考えた。まず、外部磁場を時間的に変化させた場合のパンケーキ磁束挙動からBi2212単結晶の磁化特性(M-H カーブ)を求め、臨界状態モデルとの比較を行った。その結果良好な一致が得られ、コードの妥当性が確認された。また、ピンニングセンタ配置、密度を変えて解析を行ない、磁化のピンニングセンタ依存性を明かにした。さらに、パンケーキ磁束の熱揺らぎに起因する磁束クリープが、磁化に及ぼす影響についての解析も実施し、磁束クリープに起因した磁化劣化を再現することに成功した。今後、高温超電導体の実用化にとって重要である不可逆磁場及び融解磁場の定量的評価につなげることが期待される。

高温超電導コイルによるメジャーディスラプションの抑制

山田 智海、、ミハラケ オビデウ、内一 哲哉、宮 健三

メジャーディスラプションによりプラズマが制御不能に陥った場合、プラズマはVertical Displacement Events(VDEs) と呼ばれる垂直方向運動を引き起こし、炉内構造物に深刻なダメージを与える。本項目では、高温超電導コイルをプラズマ周辺に配置することによりメジャーディスラプションを抑制することを考え、その有効性を数値解析により検討した。ここでは、プラズマ電流クエンチを伴うメジャーディスラプション時の高温超電導体によるプラズマ安定化効果を、周辺導体の渦電流と非線形プラズマの相互作用を解析するTokamak Simulation Code (TSC) を用いて評価した。その結果、国際熱核融合実験炉(ITER)の体系にて、高温超電導体によりVDEs を抑制し、第一壁と接触すること無くプラズマ電流を消滅することが可能であることが示された。また、このとき超電導体に働く電磁力を評価し、SS316を用いた支持構造により超電導体の性能を損なわずに支持することが可能であることが判った。

高温超電導トカマクの炉心設計

山田 智海、、ミハラケ オビデウ、内一 哲哉、宮 健三

高温超電導コイルによりプラズマ不安定性が抑制されれば、高非円形度のプラズマ配位が可能となり、炉心性能の向上と炉の小型化が期待できる。一方、現在ITERの低コストオプション(RCO)の検討作業が進められ、ITER小型化の可能性が追求されている。この現状を踏まえ、本項目では非円形度、及びプラズマ大半径を除きRCOと同じ条件を用いて設計を行い、高温超電導コイルの導入によりさらなる小型化が可能であるかを検討した。新たに開発した安定性解析コードを用いて炉心設計を行った結果、高温超電導コイルを導入することでより大半径5mという小型な(RCO大半径は約6m)高効率炉の設計が可能であることが示された。

;A-φ法によるECT信号解析

程衛英、陳振茂、宮 健三

通常欠陥は特定の部分に集中して発生するため、その信号はきわめて複雑なものとなる。このような問題に対処すべく、近年新たに4センサー型のプローブが開発されたが、本研究においてはこのプローブの特性を定量的に評価するため、A-φ解析コードを用いた順問題解析を行った。その結果、4センサープローブは従来のパンケーキプローブに比べて分解能が優れていること、また複数欠陥が存在する場合には、パンケーキ、4センサーいずれのプローブにおいてはその信号は各々の欠陥によるものの単純な重ねあわせにもならないことなどが示された。また、従来の解析コードはその解析体系が比較的単純な形状に限られていたが、今回新たに改良を加えることによって、支持板などを含む領域での解析、さらに磁性体の取り扱いをもが可能となった。

データーベース法を用いた欠陥形状の再構成

遊佐訓孝、程衛英、プレダ ガブリエル、宮 健三

蒸気発生器細管におけるEDM人工欠陥に対し、その形状を渦電流探傷試験から得られたデータを用いて再構成する逆問題解析を行った。本研究室において開発された高速順問題解析手法であるデーターベース法を逆問題解析に適応することで計算に要する時間は大きく短縮され、現実的な時間内に物理モデルに基づいた最適化を行うことが可能となった。走査方向に対して傾きを持つ欠陥の場合、複数個の欠陥が存在する場合、4センサープローブを用いた場合など様々なケースについて再構成がなされたが、その形状が矩形、楕円、さらに複雑な場合であっても、実験データもしくは解析データを用いて精度の高い結果を得ることに成功した。