UTNL-W-0007J
Section 2.4

2. 研究活動

2.4. 原子炉設計工学研究部門

(1) 構成

教授 岡 芳明
助教授 越塚 誠一
助手 斉藤 勲 ・ 岡村 和夫 ・ 向原 民
技術官 助川 敏男 ・ 上田 徹 ・ 貴家 憲彦 ・ 寺門 勉 ・ 間渕 幸雄 ・ 仲川 勉
大学院生
博士課程3年 土橋 和夫 ・ 中塚 亨 ・ 尹 漢榮
2年 池田 博和
1年 近澤 佳隆
修士課程2年 清水 信行 ・ 関根 瑞恵
1年 松浦 正治 ・ 白濱 寿敏
学部学生4年 野村 克也

(2) 主な研究活動

大型超臨界圧軽水冷却減速炉の合理化とBOPの設計
土橋 和夫, 岡 芳明, 越塚 誠一

超臨界圧軽水冷却減速炉(SCLWR)は超臨界圧水を冷却材とする貫流型の原子炉概念である。現行の軽水炉よりもシステムが簡素で熱効率も高く、経済性の飛躍的な向上が期待できる。平成10年度は大型炉心について減速最適化およびBOPの合理化について検討した。ABWRと同程度の熱出力3,900MWの炉では、被覆材料が異なることから濃縮度は4.2%とやや高くなるが、炉心出口温度508℃で熱効率が44%となるため電気出力は1,700MW程度まで上昇する。これはABWRの電気出力1,350MWよりも26%も大きい。一方、再循環系や気水分離器などが無いため圧力容器はむしろ小型化し、同時に格納容器も小型化できる。給水流量も熱効率の上昇のため減少するのでBOPもコンパクトになる。蒸気インジェクタ型給水加熱器を採用すればさらに小型化する。

超臨界圧軽水冷却炉の起動の研究
中塚 亨, 岡 芳明, 越塚誠一

超臨界圧軽水冷却炉の起動方式としては、超臨界圧で起動する定圧運転方式と亜臨界圧で起動する変圧運転方式の2種類が考えられる。定圧運転方式では主蒸気系のバイパス系として減圧弁およびフラッシュタンクが必要で、タービンの暖機はフラッシュタンクで分離した亜臨界圧蒸気を用いておこなう。変圧運転方式では気水分離器が必要で、亜臨界圧運転時にはここで液滴を分離した後の蒸気をタービンに送る。この場合、起動途中における原子炉出力、給水温度、運転圧力などのパラメータは、被覆最高温度を定格運転状態の制限値以下にするという条件によって制約される。さらに、フラッシュタンクおよび気水分離器といった起動用機器の重量も計算し、変圧運転方式の方が重量が軽くなり優れていることがわかった。

超臨界圧軽水冷却減速炉の制御の研究
清水信行, 中塚 亨, 岡 芳明, 越塚誠一

超臨界圧軽水冷却減速炉(SCLWR)システムの動特性解析をおこない、この炉に適した制御方法を検討した。この炉は、以前に解析を行なわれた高速炉に比べて冷却材密度係数が大きい。そのため給水流量を変化させると、主蒸気温度は殆ど変化せずに炉の出力が大きく変化する。そのため、高速炉の場合には制御棒によって原子炉出力を、給水流量によって主蒸気温度を制御していたが、熱中性子炉であるSCLWRでは逆に制御棒によって主蒸気温度を、給水流量によって原子炉出力を制御する方式がよいことがわかった。応答の安定性や収束性より制御パラメータを決定し、プラント動特性解析コードを用いて種々の外乱に対して良好な応答が得られることを示した。また、出口温度が500℃程度の高温炉(SCLWR-H)についても検討し、同じ方式で制御できることを示した。

超臨界圧軽水冷却高速炉の高出力炉心の設計
野村 克也, 向原 民, 岡 芳明, 越塚 誠一

超臨界圧軽水冷却炉は給水がそのまま炉心を流れる貫流型システムであるので、炉心流量が必然的に少なくなる。そのため、炉心を稠密にして流速を上げることが伝熱上有利である。そこで、稠密炉心を用いた高温超臨界圧軽水冷却高速炉(SCFR-H)において、増殖を目標としなければ、ブランケット燃料を相対的に減らすことでさらに出力を増大させることができる。そこで、既に設計されている高温熱中性子炉(SCLWR-H)と同じ圧力容器を用いるとして、SCFR-Hの高出力炉心を設計した。SCLWR-Hでは出力密度が約101MW/m3で電気出力が1,570MWであったが、高出力SCFR-Hではブランケット領域を含めても出力密度が167MW/m3で電気出力が2,017MWに達した。従って、MOX炉心の経済性をウラン炉心よりも向上させる方策として、増殖を目指さずにブランケット燃料を減らした高出力SCFR-Hは有効である。

超臨界圧軽水冷却炉のサブチャンネル解析
向原 民, 岡 芳明, 越塚 誠一

一般に原子炉炉心では、出力分布が径方向に一定でなかったり、流路面積が一様でないなどの場合に、冷却水の流量分布に偏りが生じるおそれがある。特に超臨界圧軽水冷却炉では軸方向の冷却水の密度変化が大きいため、わずかな非均一性によって流量分布の偏りが著しくなることが考えられる。例えば、出力の高い燃料棒に接するサブチャンネルでは、冷却水密度がより低下することにより圧損が増加して流量が減少する。流量の減少はさらに冷却水密度の低下を引き起こす。そこで、超臨界圧軽水冷却炉のサブンチャンネル解析コードを開発し、燃料集合体内の詳細熱流動解析をおこなう。

超臨界圧軽水炉におけるLOCAの感度解析
趙 國昌, 岡 芳明, 越塚誠一

これまでの超臨界圧軽水冷却炉の安全解析より、冷却材喪失事故(LOCA)が設計パラメータを制約すると予想される。すなわち、LOCA時に安全上の判断基準を満たすためには、燃料棒間ギャップ、炉心高さ、線出力密度などの設計パラメータの取りうる範囲が規定される。こうした設計パラメータは出力規模など炉の経済性に大きく関係している。そこで、超臨界圧軽水冷却炉のLOCA解析コードSCRELAを用いた感度解析をおこなって設計可能なパラメータ範囲を探求する。

粒子法を用いた蒸気爆発の数値シミュレーション
池田 博和, 越塚 誠一, 岡 芳明

原子炉のシビアアクシデントにおいて懸念されている蒸気爆発は、強い衝撃波を伴うためその機械的エネルギーによって圧力容器や格納容器を破損することが考えられる。これまでの研究では、粒子法(Moving Particle Semi-implicit, MPS Method)を用いた溶融金属細粒化過程の2次元シミュレーションより、溶融金属細粒化のメカニズムとしてCiccarelli-Frostの仮説が妥当であることが示された。これは、溶融物に複数の水ジェットが衝突すると、溶融金属がフィラメント状に飛び出してくるというものである。また、自発核生成のような急速沸騰によっても水ジェットと同じ現象が生じることがわかった。そこで平成10年度は、日本原子力研究所でおこなわれた可視化実験MUSEのMPS法による解析をおこない、水ジェットの潜り込み挙動が実験と良く一致した。これによってMPS法による水ジェットの衝突のシミュレーションの妥当性が確かめられた。また、溶融金属細粒化過程の3次元シミュレーションにも取り組んでいる。

粒子法による溶融炉心-コンクリート相互作用の解析
関根 瑞恵, 松浦 正治, 越塚 誠一, 岡 芳明

原子炉のシビアアクシデントでは、溶融炉心が格納容器内のコンクリート床上に落下すると、コンクリートが高温溶融炉心によって熱分解すると考えられている。コンクリートは熱分解すると炭酸ガスなどの非凝縮性ガスを発生するので、これを停止させなければやがて格納容器が破損する。そこでコンクリートの熱分解を停止させるために、溶融物の上から注水して崩壊熱を除去する必要がある。しかしながら、これまでおこなわれた模擬実験はいずれも実炉と比較して小規模であり、スケール効果によって結果に差が生じると言われている。また、これまでの計算コードは実験相関式に頼るものであるため、こうしたスケール効果を考慮できない。そこで粒子法によって基礎方程式に基づいた溶融炉心-コンクリート相互作用の解析コードを開発した。本コードを用いて、米国のサンディア国立研究所でおこなわれたSWISS-2実験の解析をおこなったところ、コンクリート侵食量や水プールへの熱流束の結果は実験結果と良い一致が得られた。

粒子モデルを用いた厚肉弾性体の数値シミュレーション法の開発
近澤 佳隆, 越塚 誠一, 岡 芳明

流体-構造物連成振動において、液面や構造物が大変形する場合には、従来の差分法や有限要素法などの格子を用いる方法では解析が困難である。これまで非圧縮性流れを解析できる粒子法としてMPS法を開発し、界面の大変形を伴う熱流動問題に適用してきた。ここではさらに構造解析のための粒子法を開発し、MPS法と統合することにより統一的に流体-構造相互作用を解析できる手法の開発をおこなっている。平成10年度は厚肉弾性体の粒子計算モデルを新たに開発し、片持ち梁などの検証計算によって従来の有限要素法と同程度の計算精度が得られることを示した。アルゴリズムには陽的なものと陰的なものの2種類を開発し、動的問題のみならず静的問題にも適用できる。

MPS-MAFL法による核沸騰の数値シミュレーション
尹 漢榮, 越塚 誠一, 岡 芳明

沸騰二相流では、 固定された流入・流出境界と移動境界を同時に扱う必要があるとともに、加熱壁近傍の極めて薄い温度境界層を扱わなければならない。そこでMPS法を拡張し、任意ラグランジュ系-オイラー系の計算が可能なMPS-MAFL法を新たに開発した。この手法を用いて単一気泡の上昇の計算をおこなったところ、粘性や表面張力などのパラメータによって気泡は円形、楕円形、キャップ形状になり、Graceの整理した相関図と良く一致した。さらに、Han-Grifficeのサブクール沸騰の実験条件で解析をおこない、加熱壁面上での気泡の成長速度が実験と良く一致した。沸騰二相流は原子力のみならず多くの産業分野で重要な現象であるにもかかわらず、これまでは数値シミュレーションによって熱伝達率や沸騰遷移現象などの基本的ふるまいを計算することができなかった。格子を必要としないMPS-MAFL法を用いれば、沸騰二相流の挙動を定量的に解析できる可能性があり、こうした方向で今後も研究を進めていく予定である。

MPS-MAFL法の計算精度の研究
山下 大介, 尹 漢榮, 越塚 誠一, 岡 芳明

MPS-MAFL法では格子を用いずに完全オイラー系の計算が可能である。そこで、従来の差分法と比較して計算精度がどの程度であるかを調べるため、正方キャビティ内の自然対流のベンチマーク解析をおこなった。側壁の片方が加熱壁でもう一方が冷却壁であり、無次元パラメータであるレーリー数を103から106まで変化させ、de Vahl Davisのベンチマーク解と比較した。40x40の計算点数を用いた場合にどのレーリー数においても誤差は3%以内であった。これは以前機械学会の委員会で示された差分法や有限要素法の計算精度と比較しても優れた結果である。


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