UTNL-W-0009J
Section 2.5

2. 研究活動

2.5 ライナック運転管理部

1、 構成

管理部長 宮 健三 教授
(副)管理部長 上坂 充 助教授
管理部員 吉井康司助手、上田徹技術官、小林鉄也研究機関研究員

2、 主な研究活動

(1) フォトカソード高周波電子銃の性能試験

フォトカソード照射用レーザーシステムを住友重機械工業製の全固体Nd:YLF レーザーシステム(PULRISEII)に更新し、性能試験を行った。その結果、エミッタンス:10π mm-mrad 、パルス長:5ps、エネルギー?3MeV、電荷量:1nC、電荷量の安定度1%(rms)の電子ビームを発生でき。又、銅カソードの量子効率の低下(5×10-5) が認められたが、10-10torrの真空度にすることで、1.4×10-4の量子効率まで回復した。

(2) フォトカソード高周波電子銃の性能試験 △

平成10年度末に導入された0.3TWレーザー装置のレーザー出力を2分割し、一方をフォトカソードRFガンに、一方をプローブ光とする放射線化学の超過渡現象解明を行うポンプアンドプローブ法の構築を行った。この研究の一環として、フォトカソードRFガンへの照射用レーザーシステムを0.3TWレーザーを用いたものに更新してのRFガンの特性試験を行った。その結果、ガン出口で7nC近い電荷量が確認され、Q値も1.4×10-4と大きな値が観測され、電荷量のサチュレーションの傾向も観測された。又、電荷量が大きい場合と小さい場合において、RF位相に対するピーク位相のずれが観測された。

(3)15MWクライストロンと5KWサブハーモニック半導体増幅器の導入による特性試験

平成10年度末に15MWクライストロン及びパルサーと5kWサブハーモニック半導体増幅器の更新を行った。

今までは7MWクライストロン2台のシステムで加速管3本とRF-電子銃へのマイクロ波の供給を行なっていた。今回、15MWクライストロンを導入する最大の利点は、2台のクライストロンの同時運転よりも1台のクライストロンで出力を2分割する方式の方が、パルサーが1台で済むためクライストロン相互の位相ジッターがなくなり安定度の向上が期待されることである。従って新システムでは35MeVライナックモードでは、15MWクライストロン出力を2分割してそれぞれの加速管に7.5Mを供給し、また、18MeVライナックモードではRF-GUNと加速管一本に各々7.5MWを供給することができる。一方、クライストロンIは従来のまま残し、今までと同じ28MeVモードでの運転が可能である。クライストロンの仕様としては、基本的に従来と同じ空間内に納める必然性から、パルサー電源の小型化を計った。また、高安定化のためにインバータ方式による半導体直流高圧電源方式を選択した。短パルスビームを目指しているため、パルス巾は、1μs内での電圧、位相、平坦度の安定度を補償することとした。従って、長パルス(4.5μs) ビーム運転はできなくなる。繰返しも、小型化を考慮して従来の1/4の50 ppsまでとした。詳細設計は三菱電機(株)が行なった。また、476MHzサブハーモニック増巾器の更新を行なった。従来は板極管7651と7214を使用していたが、最近の半導体技術の発展によりトランジスタで制作し、5kW,30μs, 100ppsの性能とした。安定度は出力安定度1%以内、位相安定度±1゜以内とした。大きさは従来の1/2に小型化された。詳細設計は日本高周波(株)が行なった。

(4)サブピコ秒パルスラジオリシス同期システムの開発

放射線誘起反応初期過程の解明を目的として、18MeVライナックを用いて、上記(3)に示す新同期システムを用いて、ピコ秒電子パルスとフェムト秒レーザーの同期実験と、これらを照射、測定用パルスとするピコ秒パルスラジオリシス実験を行なった。

新同期システムにおいては、0.3TWフェムト秒チタンサファイアレーザーをビームスプリッタで分岐し、電子パルス生成用にレーザーフォトカソードRF電子銃への入射光として用いるだけでなく、測定光としても用いる(レーザー駆動方式)ことが大きな特徴で、更なる電子ビーム・レーザー高精度同期を目的とした。その結果、従来型同期システム(熱電子銃とフェムト秒レーザーの電気的制御方式)における3.7ps[rms]を上回る、2.1ps[rms]の同期に成功した。次にパルスラジオリシス実験を行った所、30psの時間分解能を達成し、またピコ秒領域における水和電子およびプロトンとの反応による時間減衰の測定に成功した。

(5)12TW 50fsレーザーを用いたピコ秒X線発生実験

現在構築中のピコ秒時間分解X線回折システムのX線源強化のために12TW50fsレーザーおよびパラボリックミラーを導入しレーザープラズマX線発生実験を行った。発生したX線を結晶に照射してX線回折を行い回折像を取得した。我々は、物質の極短時間領域における動的挙動解明のための手法の一つとして、ピコ秒時間分解X線回折法の研究を行ってきた。これは、超短パルスレーザーをポンプ光、極短X線パルスをプローブ光として、ポンプ光により結晶に誘起した過渡的変化の情報をX線回折像として取得する方法であり、これによって熱膨張や格子振動など結晶のピコ秒時間領域における動的挙動の直接的な観測が可能となる。これまでに、ライナックからのサブピコ秒X線パルスによる結晶の静的回折像の取得や3TWレーザーを用いたレーザープラズマX線の発生に成功しているが、いずれもX線発生量が弱いなどの問題により動的な回折像の取得にはいたっていない。そこで、本研究ではX線発生量を増加し、時間分解X線回折を実行するために、12TW50fsレーザーおよび反射光学系を導入し、レーザープラズマX線発生実験を行っている。

RFフォトカソードXバンドリニアックの設計研究

加速器を小型化するために、Xバンドのシステム設計検討している。Xバンドリニアックを用いフェムト秒のビームの発生については、以前から検討を進めている。例えば、熱電子銃とSHB,2本(加速とエネルギー変調)のXバンド加速管、アークタイプの磁気パルス圧縮装置で100[fsec] のビーム発生が可能であるというシュミレーション結果が得られた。また、SバンドRF電子銃と2本のXバンド加速管のシステムについても検討を行った。検討が進むに従い、構成機器が減少しシステムは単純化している。

さらに、単純化・小型化を目指し、フォトカソードXバンドRF電子銃と1本のXバンド加速管、シケインタイプの磁気パルス圧縮装置から構成されるシステムの検討を行った。ビームシュミレーション結果、150fsの電子ビームの発生の可能性が示された。