巻頭言


主任教授 班目 春樹


本年報は東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設の平成12年度の研究教育活動、研究設備の運転状況などについてとりまとめたものである。本施設には高速中性子源炉「弥生」、電子ライナック、核融合ブランケット設計基礎実験装置、重照射研究設備(HIT)がある。前2者は全国大学共同利用、ブランケットは工学系研究科内のHITは原子力研究総合センターを通じて学内の共同利用に供している。なおこれらの設備はいずれも活発に利用されており、個々の研究テーマの成果はそれぞれの成果報告書にまとめられている。

本施設ではこれまで、共同利用研究者の便宜を優先させ、マシンタイムもできるだけ十分提供することを心掛けてきた。しかしながら平成119月のJCO事故後、これまでにも増して安全確保のための点検等に時間を割かざるをえなくなり、全体的な見直しが必要な時期にきていると感じている。弥生の共同利用に供するマシンタイムも、平成12年度までは従来と同程度を確保したが、平成13年度からは共同利用者に迷惑を掛けない範囲内で若干短縮することとしている。ライナックも、フェムト秒高速量子現象研究設備の整備に歩調を合わせながら、設備の特色を活かすことのできる研究テーマへの傾斜を強めている。このことは共同利用者を締め出す方向へ向かっていることを意味するものではない。弥生にしろライナックにしろ、世界的に見ても一流の優れた設備である。それを、他の設備でも可能な実験に供することは、世界的視野に立って考えると研究資源の有効利用とはいえない。むしろこの設備でなければできない実験を我々の側から積極的に発掘し、新たな共同利用者を増やすことこそが研究資源の有効利用であると考えている。この点をご理解いただき、一層のご支援をお願いしたい。

 

安全確保のためには多くの努力を払っているが、研究の終了した設備のスクラップもその一環として重要であると考えている。設備によっては放射性廃棄物となるものもあり、これを放置しておくと将来に大きな負担を残すことになる。また、「スクラップ」を進めてこそ新しい設備の「ビルド」が可能になる。研究終了後の設備の処理については研究者の協力が不可欠である。研究者の方からは後向きの作業に見えるかもしれないが、我々も協力を惜しまないので、是非ともご理解のほどをお願い申し上げる。

 

以上、共同利用設備の管理面の問題を中心に述べたが、平成12年度もすばらしい研究成果があげられていることは言うまでもない。共同利用研究の成果については、冒頭にも書いたように、それぞれの報告書もご覧いただきたい。

 

最後に、我々の活動は文部科学省、工学系研究科長・評議員・協議員をはじめとする工学系研究科の先生方、運営委員会や実験計画委員会の先生方、ならびに日本原子力研究所の各位のご高配、ご厚情、ご指導の賜であることを記し、ここに厚く御礼申し上げる。