UTNL-W-0011J
Section 2.6

2. 研究活動

2.6 ブランケット管理部


 

(1) 核融合炉ブランケット固体増殖材料表面と水素同位体の相互作用に関する研究

  山口 憲司 (協力者; システム量子工学専攻・山脇 道夫, 寺井 隆幸)

 

核融合炉ブランケット固体増殖材からのトリチウム回収を促進するために、 微量の水素をスイープガスに添加することが提案されている。 この点に関し本研究室では、表面状態の変化に非常に敏感とされる仕事関数を高温かつ雰囲気制御下で測定できる 「高温ケルビン計」を用いて、 Li系セラミックス材料表面とスイープガスとの相互作用のメカニズムの解明を試みている。 前年度 Li2O に水素雰囲気にさらした時に 従来とは正反対の仕事関数変化を示したことから、 今年度はその原因解明を目指すこととし、 その一環として、 水蒸気を含むスイ―プガスとの相互作用に伴う仕事関数変化の測定を重点的に行った。 その結果、仕事関数変化は、 スイ―プガス中に導入した H2O 分圧にほぼ比例して増加することがわかった。 以上より、 L2O 試料が従来他の試料で見られた挙動と逆の傾向を示した原因として、 スイープガス中に導入した H2 により生じた H2O Li2O 表面に吸着したことによると結論した。

 

(2) イオンビーム注入に伴う仕事関数変化の測定

  山口 憲司 (協力者; システム量子工学専攻・山脇 道夫, 寺井 隆幸)

 

イオンビーム等のビーム照射装置内での仕事関数測定が 「その場」で可能な実験体系を構築し、 これをビーム照射装置に接続して、仕事関数測定を試みている。 前年度より、ケルビンプローブによる測定に対して、 空間電荷が仕事関数測定に致命的な悪影響を及ぼすことを確認しており、 今年度はその影響を定量的に把握することに努めた。 まず、測定誤差をその起源ごとに検討し、次いで、その解消方法として、 参照試料を導入する方法を提案し、これを用いることにより、 プローブへの帯電の効果やプローブ自身の仕事関数変化が相殺されることを 実験により示した。 また、真空容器内の様々な荷電効果の影響についても定性的な検討を行った。 たとえ、仕事関数が安定な参照試料といえども、 入念に荷電効果を遮蔽する施策が必要であるし、 また、 測定体系中では絶縁物の使用は極力回避すべきで、 やむを得ずこれを使用する場合は 帯電した電荷が測定系に与えないような遮蔽措置を講じなければ 正しい仕事関数測定はできない、等の知見を得た。

 

(3) 核融合炉材料中の水素輸送における表面効果

  山口 憲司 (協力者; システム量子工学専攻・山脇 道夫, 寺井 隆幸)

 

 Nb 試料に対する熱解離水素(重水素)原子駆動透過速度について、 透過速度のアレニウスプロットにおいて、中間温度で極大となる温度依存性を見出し、 ガス駆動透過ともイオン駆動透過とも異なる結果が得られた点に関して、 これまでの議論を整理した。

 このような結果が生じるのは、律速過程の競合が存在するためと考えた。 試料表面の元素組成比は、実験試料温度全域に渡って不変であったため、 温度依存の表面不純物効果とする従来の考えでは説明がつかない。 一方数値計算により、バルク下流端水素濃度は、 低温側で顕著に高くなるようなアレニウスプロットが描け、かつ、 バルクの深さ方向水素濃度分布は、各実験温度ともバルク全体を通して一様である、 すなわち上流側と下流側の間で水素は頻繁に往来していることが示唆された。 かたやイオン駆動透過実験から評価した再結合係数は、 低温領域では著しく減少することが明らかになっている。 これらの事実をもとに、透過速度が極大となる温度を境に、 高温側ではバルクへの水素の供給が追いつかず透過速度は減少する、 しかし、低温側では、下流側表面からの再結合放出が律速になり透過速度は減少する、 という新しい解釈を提案した。 残念ながら、装置上の制約から水素の表面被覆率を直接評価することができなかったため、 表面ᬢバルク間の水素ポテンシャルを定量的に議論することは困難であった。 しかし、超高真空下における界面では、水素ポテンシャルは不連続になり、 それが非平衡の実体であることに相違なかろう。 そのことは、別途行ったNiに対する低圧ガス駆動透過実験の結果から間接的に確かめられた。

 

(4) プラズマ駆動「超透過」(superpermeation)に関する基礎的研究

  A. Busnyuk, 山口 憲司 (協力者; システム量子工学専攻・山脇 道夫, 寺井 隆幸)

 

本研究では、 炭素に代表される不純物被膜がプラズマによって駆動される水素の透過に及ぼす影響を、 模擬試験装置 Plasma Membrane Test Device (PMTD) を用いて 実験的に明らかにすることを目的としている。 主要な実験結果は以下のとおり。

 

    1.水素を一定流量で導入し、GDP (ガス駆動透過) ADP (原子駆動透過) PDP (プラズマ駆動透過) と、水素透過のモードを変えていくにつれ、 順次等加速度が増加するのを確認した。 この過程で、特にADPPDPに関して、炭素不純物膜の影響により、 透過速度が大きく減少することが分かった。

    2.GDPに基づいて評価されるNb透過膜の非対称度が、12の範囲に収まったことから、 GDPは炭素不純物膜の影響をほとんど受けないことが分かった。 この結果より、ADPPDPで炭素付着膜により透過速度が著しく減少する原因は、 解離原子あるいはイオンの吸収率が被膜の存在により顕著に妨げられるためと考えた。

    3.炭素ターゲットへ電流を通じることによりターゲット温度を制御した。 ターゲット温度の増加とともに化学エロージョン率が下がるため、 本実験の条件下では透過速度は増加した。

    4.水素分子・原子の吸収に対する炭素付着の効果は、入射炭素フラックスとNb膜の温度に依存した。 炭素付着の水素透過への阻害効果は、低炭素フラックスの場合、 600700℃の間で最大となることが分かった。 一方、高炭素フラックスでは、 700℃以上でほとんどPDPによる透過が観測されなかったことから、 高温でも安定に存在する炭素被膜の存在が示唆されたが、 表面分析からは明らかにできなかった。  

 

 一方で、Nbに替えてPdを透過膜として用いて、同様の実験を行った。 透過実験の結果から再結合係数を評価するなど、Nbの結果との比較を試みた。 ことに炭素被膜の影響に関しては、NbほどADPPDPに対する影響はほとんど認められなかった。

 

(5) ハイドライド(水素化物)燃料の評価に関する研究

  垣内 一雄, 小野 双葉, 山口 憲司 (協力者; システム量子工学専攻・山脇 道夫, 寺井 隆幸)

 

 水素化物燃料を BWR に適用することができれば、 炉心上部でも高い熱中性子束が得られるため、 出力分布の平坦化、燃焼の均一化等の性能向上の可能性が考えられる。 そこで、水素化物燃料の BWR への適用可能性を検討するために、 平成10年度より本研究を開始し、これまでに、 水素化物燃料の熱伝導度が UO2 と比較して約35倍程度優れていることを明らかにした。 一方で、ハイドライド燃料では、燃料温度の増加に伴い水素が放出され、 被覆管を通して水素が透過する可能性があるが、 酸化処理した被覆管を用いると、ZrO2が透過障壁として機能すると考えられている。 そこで、今年度より、高温ケルビン計を用いて、被覆管の酸化被膜の電子特性、 水素との相互作用などを調べる実験を開始した。

 

(6) NaFe複合酸化物の精製と化学熱力学特性に関する基礎的研究

小野双葉、山口憲司(協力者;システム量子工学、山脇道夫)

 「もんじゅ」事故において当該配管室に備えられていた炭素鋼製の構造物の一部に損傷あるいは減肉が認められた。これらの損傷部近傍対象とした材料分析では、NaFe複合酸化物が検出されている。サイクル機構による「燃焼実験TおよびU」では、生成したNaFe複合酸化物の種類や鉄の酸価数等も異なることが確認されている。腐食機構の解明や、今後の構造物損傷抑制を適切に行う為には、生成した各種NaFe複合酸化物の信頼性の高い熱力学データが必要である。このことから、夫々の化合物に対して以下の熱力学的特性など基礎的なデータ整備に関わる以下の検討を行う。

(1)NaFe複合酸化物(Na4FeO3、NaFeO2、Na4Fe5O9、Na5FeO4など)を単独で合成する手法を確立する。: 極低酸素ポテンシャルで生成するNa4FeO3をはじめ、NaFe複合酸化物を研究室で合成する技術を開発する。

(2)合成した上記NaFe複合酸化物について、熱力学特性データを取得する。:  Na4FeO3の融点(分解点)、高酸素ポテンシャル下におけるNa4FeO3生成(安定性)の確認をはじめ、合成したNaFe複合酸化物について熱力学的データの取得など試験評価を行う。

(3)熱力学データベース(MALT2)により検討され、提案されたFeO-Na2O状態図の確認。:  MALT2により検討・提案されたFeO-Na2O状態図には「もんじゅ」事故および「燃焼実験TおよびU」で確認されなかったNa2FeO2化合物の存在など不確かな問題も多く残している。また、これまでに提案された文献値にも整合性がない。このことから合成した化合物の熱測定など基礎データの取得によりデータベースを整備する。

 これらの検討・確立によりNa-Fe系複合酸化物の熱力学特性が整備され、「もんじゅ」事故の機構解明、さらにはNa化合物を取り扱う化学熱力学計測技術の確立と、信頼性の高い標準データの提供が可能となる。

 

(7) トリチウムによる汚染とその除染に関する研究

 小野双葉 (協力者:システム量子工学;田中 知、山脇道夫)

  核融合炉燃料である水素同位体のトリチウムに対して、トリチウム取扱装置などでトリチウムガスあるいはトリチウム水蒸気の供給から回収または廃棄までの一連の操作を行うと、配管材料や測定機器の内壁などには必ずトリチウムの吸着(付着)が起こる。この際、吸着したトリチウムはガススイープあるいは真空排気などの操作では容易に脱離せず、吸着したトリチウムの一部は表面に残る。その結果材料などの汚染がもたらされる。この汚染の度合は材料の種類、表面状態および取扱い時の真空度などで大きく異なる。また、キュリーオーダー以上の取扱においては、より深刻な問題になることは良く知られている。吸着トリチウムによる材料の汚染やその除染、あるいは吸着トリチウムの再放出等に関する問題は、環境安全あるいは安全取扱上のみならず、測定精度への影響、計量管理上からも重要である。

 核融合炉における燃料サイクルの中での水素吸着・吸蔵のメカニズムをFT/IR、TG−DTA等の分析手法や熱力学データ等を積極的に利用して、さらに水素同位体のトラップメカニズムについて検討していく予定である。これによって、核燃料サイクルでの水素同位体の分離・回収技術さらには水素貯蔵材の開発に発展させたいと考えている。

 

(8) 熱分析装置を用いた各種原子力関連材料の熱物性測定実験

小野双葉、山口憲司(協力者;システム量子工学、山脇道夫)

 核燃料材料の基礎物性に関する実験を行ってきているが、ウランーマンガン系化合物等あるいはウランートリウム系化合物等さらにはナトリウムー鉄系複合酸化物等の熱的特性はこれまで実験的に測定された例があまりない。その理由として核燃料物質を取り扱える施設は限定されてしまうことや生成物が大気中で不安定であることなどが挙げられる。

 しかし、原子炉での想定される事故や燃料の安全性等の観点からは、これら燃料材料等の熱的特性を明らかにすることは重要である。ここでは、トリチウム工学実験室に設置されているマックサイエンス製熱分析装置(TD−3000)を用いてこれら燃料材料などの熱特性を実験的に求めて、既存の熱力学データとの比較やデータベースとなりうる熱力学的データを取得する事を目的とする。

 得られた実験データは、それぞれの開発中の新しい核燃料材料の挙動評価に際して、熱力学的データベースとして有用な資料となる。