UTNL-W-0011J
Section 2.7

2. 研究活動

2.7 重照射運転管理部


(1) 構成 
助教授 柴田裕実
助手  岩井岳夫
技官  田口賢治

(2) 主な研究活動
ビーム工学
Beam Engineering

ビーム工学は微量分析、新材料の合成、超微細加工、新ビーム源の開発等の多くの分野で急激に重要性を増し、研究量も非常な速度で増加している。我々も以下のようなイオンビーム、電子線を用いた分析・測定技術や短いパルスビームの発生、さらに8年度からは月軌道人工衛星搭載用検出器の校正に使用するため、宇宙塵を模擬するダスト加速器の開発研究を行っている。
A. イオンビームを用いた時間分解発光スペクトル測定法の開発とその応用
B. イオンビームによる固体からの原子・分子脱離に関する測定技術開発
C. マイクロイオンビームの開発とその応用
D. シングルイオンヒット装置の開発とその応用
E. 荷電粒子の新加速方法であるプラズマによる加速の研究
F. 宇宙空間で飛び交う微粒子を模擬するためのダストイオン源及び加速器の開発とその応用
G. 陽電子ビームの発生とイオンビーム照射下陽電子ビーム実験装置の開発
H. パルスレーザーとパルスイオンビームの同期照射装置の開発


放射線物理化学の研究
Study on Radiation Physics/Chemistry

最近のビーム科学技術の進展や放射線(ビーム)利用の急速な発展にともなって、液相や固相などの凝縮系の放射線化学、高分子材料や有機材料のビーム照射効果の基礎、気相におけるイオン分子反応や原子分子過程、凝縮系における放射線物理の研究などの基礎的な研究の重要性が強く認識されている。最近の主要研究課題を以下に示す。

A. 電子線と重イオンでは、LETあるいは阻止能に数ケタの違いがあるので、電子線やγ線照射による低密度電子励起より生じる物理・化学過程と重イオン照射による高密度 電子励起より生じるそれらとは照射する系によって大きく異なる場合がある。有機物を中心に高密度電子励起後の特異反応の研究を行っている。

B. 電子線及びイオンビームパルスラジオリシス法を用いて、通常の方法では測定困難な反応性に富む短寿命の反応中間体を直接測定することにより、基本的な物質の放射線化学反応を解明し体系化する研究をおこなっている。

C. 原子核や素粒子実験に用いられる粒子検出器として固体、液体シンチレータがあるが、その発光に関わる化学反応機構は詳細にはわかっていない。発光の効率の向上やLET依存性を考える上で放射線によって誘起される化学反応の機構を解明する必要があり、現在Desmarquest(酸化クロムを含むアルミナ)やイメージングプレートのような揮尽発光体等を中心に研究を行っている・


固体材料の照射損傷の研究
Radiation damage in Solids

 核融合炉や軽水炉などの原子力エネルギーシステムにおいて、構造材料の中性子照射損傷はそのシステムの安全性を左右する極めて重要な問題である。照射損傷の機構を理解するためには中性子照射だけにとどまらず、多様な照射手段を用いた実験データを有機的に活用していくことが望ましい。重照射研究設備の加速器はもちろん、弥生炉、ブランケット棟の加速器、原研高崎の加速器、JMTR、FFTFなど、多彩な照射手段を有効に用いて、以下のような研究を行っている。

A. バナジウム合金はオーステナイト系ステンレス鋼に比べて耐スエリング性で優れた性質を持つが、近年になってFeやCrなどのアンダーサイズ原子の添加によりスエリングが著しく加速されることがわかり、その機構理解はスエリングそのものの機構理解という意味でも重要な意味を持つ。重照射研究設備の二重ビーム照射装置によりアンダーサイズ原子添加したバナジウム合金中でのヘリウムのキャビティ核生成や転位組織発達に及ぼす効果、またバナジウム合金の照射誘起偏析に関する研究を行っている。

B. 軽水炉圧力容器鋼の中性子照射脆化は軽水炉システムの寿命を左右する重要な問題で、寿命評価・焼き鈍しによる回復挙動予測などを微視的な機構に基づいて行おうという機運が高まっているが、その微視的な機構はまだ明らかにされておらず、機構解明を目的とした照射実験を行っている。

C. イオン照射実験は非常に制御された比較的大きい実験マトリクスを組める利点があるが、中性子照射に比べてその損傷領域が表面近傍に限られることから電子顕微鏡など限られた照射後試験法しか用いられない。こうした現状を打破するため、イオン照射による機械的性質変化を評価するための手段として、微小押し込み試験によるイオン照射硬化の評価法の開発を行っている。


iwai@tokai.t.u-tokyo.ac.jp