UTNL-W-0011J
Section 2.2

2. 研究活動

2.2 原子炉機器工学研究部門


(1) 構成

教授       宮 健三
助教授      出町 和之
助手       内一 哲哉
秘書       松浦 美紀
研究機関研究員 Preda Gabriel, Stefan Vasiliu
大学院生
 博士課程 3年 Mihalache Ovidu, 高瀬 健太郎
      2年 松江 仁
      1年 高屋 茂、遊佐 訓孝
 修士課程 2年 松浦 貴洋、三浦 章
      1年 宮澤 聖
 学部学生 4年 久保 龍太郎、澤田 明彦

(2) 主な研究活動
 
 

渦電流探傷法による原子炉構造物損傷診断
遊佐訓孝・Gabriel Preda・内一哲哉・宮 健三
Diagnosis of flaw of nuclear plant strutures by eddy current testing method
N. Yusa, G. Preda, T. Uchimoto and K. Miya

近年の目覚しい研究の発展により、渦電流探傷においては人工欠陥に対する再構成手法はほぼ確立されたと言っても過言ではない。しかしながら、渦電流探傷法における最終的な目標は蒸気発生器に発生した欠陥、すなわち自然欠陥の再構成であり、人工欠陥を対象とするものではない。本研究においては自然欠陥のもつ断面における電気的接触という特徴を考慮し、内部導電率分布を有する欠陥の形状再構成をニューラルネットワークを用いて行う手法を確立した。数値解析解を用いた検証の結果、本手法はたとえ信号に20%もの人工白色雑音が含まれていた場合でも十分な精度の解を与えるということが示された。また実際の欠陥を用いて測定された渦電流探傷信号を入力として解析を行った結果、実際の欠陥形状に非常に近い形状の再構成に成功した。


磁束漏洩法による磁性材料劣化診断
Mihalache Ovidu・高屋 茂・松浦貴弘・宮 健三
Diagnosis of ferromagnetic material degradation based on the flux leakage method
M. Ovidu, S. Takaya, T. Matsura and K. Miya

SUS304のように機器の構造部材として用いられる金属材料のなかには、通常非磁性体であるが供用中の外荷重や変形、周囲環境の影響により応力集中部においてマルテンサイト変態を起こし、強磁性を示すようになるものがある。このことから、磁束密度分布の逆解析を行ない金属材料内部の磁化分布を再構成することによって、疲労などによる劣化、損傷の程度を推定することが可能であると考えられる。この新しい劣化診断手法が従来の方法より優れている点は、き裂ができる前の段階で非破壊的に材料劣化を調べることができるところにある。本研究では、ニューラルネットワークを用いて磁束密度分布から磁化分布再構成を行なう手法を開発した。さらに、疲労損傷が与えられたSUS304試験片の磁束密度測定結果から磁化分布の再構成を行った。磁化分布再構成結果からき裂および切断面の一部で磁化している様子が確認できた。また得られた磁化分布の妥当性を確かめるために、磁化分布再構成結果から求めた磁束密度分布と測定データとの比較をおこなったが、両者は良く一致した。今回はき裂が導入された試験片について磁化分布の再構成を行なったが、本手法はき裂発生以前においても有効な手段となるであろうと思われる。


磁束漏洩法に基づく磁性体欠陥形状の再構成
松浦貴洋・Gabriel Preda・高屋茂・内一哲哉・出町和之・宮 健三
Regonstruction of flaw shapes of ferromagnetic material based on the flux leakage method
T. Matsura, G. Preda, S. Takaya, T. Uchimoto, K. Demachi and K. Miya

原子力プラント構造物の健全性確保は国内プラントの高経年化に伴ないますます重要性を帯びてきている。現在、原子炉構造物や配管等の供用期間中検査においては渦電流探傷法(ECT),超音波探傷法(UT)といった非破壊検査手法が適用されている。しかしながら、これらの手法では強磁性構造材の欠陥検出を高速かつ定量的に行うことは不可能であり、近年提唱されている新しい検査手法である磁束漏洩法はこの問題を解決する手法として期待されている。本研究では、磁束漏洩法に基づいて磁性体構造材中の欠陥部を再構成する手法を確立することを目的とし、遺伝的アルゴリズム(G. A.)、ニューラルネットワーク併用のシミュレーション手法を提案した。
 遺伝的アルゴリズムの手法を用いて欠陥形状を再構成する手法では、各々の欠陥形状に対して適応度すなわち目的関数の評価を行わなければならない。そのため、適応度を決定する部分の計算量が膨大なものになってしまいがちである。そこで適応度の評価をニューラルネットワークによって行うことにより欠陥形状の再構成を高速に行うことを可能とするシミュレーションコードの作成と検証を行った。
 仮定した欠陥形状の順解析により得られた磁束漏洩信号を入力としたシミュレーションでは、欠陥形状を高精度で再構成することに成功した。一方、実際の磁性体欠陥を測定して得られた漏洩磁場を入力とした場合のシミュレーションでは、実際の欠陥形状と再構成した形状との間にやや大きな誤差が生じた。


高温超電導磁気軸受における回転損失の測定および解析
三浦 章・出町和之・宮 健三
Diagnosis of flaw of nuclear plant strutures by eddy current testing method
A. Miura, K. Demachi and K. Miya

高温超電導フライホイールは、夜間余剰電力貯蔵システムとしてその開発が期待されている。このシステムは軸受部に高温超電導ステータと永久磁石ローター(PMローター)からなる超電導磁気軸受(SMB; Superconducting Magnetic Bearing) を採用しており、従来の接触型軸受システムに比べて摩擦抵抗によるエネルギーロスがほとんどない、磁束量子のピン止め効果により位置安定性が高い、などのメリットがある。しかし、磁気軸受部において回転体となるPMローターの磁場が不整成分をもっている場合、高速回転に伴ない変動磁場がSMBに発生し、電磁的相互作用によりPMローターの回転数が著しく劣化するという現象が実験的に確認されている。この現象は回転損失と呼ばれており、高温超電導フライホイールの実用化にとってはその評価および改善が不可欠である。
 以上の背景を踏まえ、本研究では以下の2つを行った。

  1. 電流ベクトルポテンシャル法(T法)に基づく磁気浮上力シミュレーションによるPMローター最適設計
  2. クライオスタットを考慮に入れた超電導ステータの回転損失シミュレーション手法の確立

上記1.に関しては、T法計算コードを用いて超電導磁気軸受の磁気浮上力シミュレーションを行い、PMローターを構成する永久磁石の個数と間に挟む鉄板の厚みなどに関する最適値を求め、この設計によるSMB実験装置を製作した。上記2.に関しては、本装置における超電導ステータはSUS304のクライオスタットに覆われているため、クライオスタット部分に流れる渦電流の影響を考慮するためのT法計算コードの改良を行った。改良したT法計算コードを用いて得られた回転損失シミュレーション結果が今回製作したSMB実験装置における回転損失の測定結果との良い一致を得たことから、本シミュレーション手法の信頼性を十分に示すことができた。
 


高温超電導磁気軸受の高速回転時における安全性解析
澤田 明彦・出町和之・宮 健三
Stability analysis of  high temperature superconducting mangetic bearing in high speed rotation
A. Sawada, K. Demachi and K. Miya

電力貯蔵用高温超電導フライホイールシステムとは、超電導磁気軸受により浮上する巨大な回転体(ロータ)を夜間電力を用いて高速回転させ、回転運動エネルギーとして夜間電力を貯蔵するシステムである。このエネルギーを日中に電気エネルギーとして取り出すことで、発電プラントの日負荷平準化が可能となる。このシステムは、特に短時間での出力変化が困難な原子力発電にとて、非常に有用なシステムである。
現在、開発段階にある主流の超電導フライホイールシステムでは、上記のロータの動きを制御するために能動的磁気軸受(Active Magnetic Bearing, 以下AMB)を併用している。これにより、ロータの振動をμmレベル以下にすることができる。しかしながら、AMBは電磁石を使用しているためその運転には貯蔵エネルギーの約10%の電力を必要とし、かつその体積が装置全体の概ね数割を占める、という欠点を持つ。ここでは、高効率でコンパクトな超電導フライホイールの実現のための基礎研究として以下の3つを行った。

  1. すでに開発されている高温超電導磁気軸受解析コードに、ロータのx、y軸方向の動きと回転軸の傾きを考慮に入れた改良を行う。
  2. 高温超電導磁気軸受における最接近距離の、ロータ/ステータ間距離およびロータ磁場依存性の解析を行う。
  3. 上記解析を用い、AMBを使用しない超電導磁気軸受システムの安定性を評価する。

その結果、安定に作動する適当なロータ/ステータ間距離およびロータ磁場が存在すること、および本コードを利用することでAMBを用いないフライホイールシステムでの運動の安定性が評価できること、が分かった。
 


高温超電導鞍型コイルによるトカマクプラズマ不安定性抑制
久保竜太郎・内一哲哉・宮 健三
Evaluation of rotation loss of high temperature superconducting mangetic bearing
R. Kubo, T. Uchimoto and K. Miya

高温超電導コイルをトカマクプラズマ周辺に配置することによって、プラズマ位置不安定性を抑制できることは、すでに報告してきた。その原理は、プラズマの作る磁束を高温超電導コイルにより捕獲し、プラズマ位置の変化による磁束の変動を高温超電導コイル内に誘起される電流により阻止するというものである。プラズマの上下に配置した超電導線材によるヘルムホルツコイルは、この機構の単純化されたモデルでる。しかし、ヘルムホルツコイルは、プラズマの立ち上げ時にプラズマが消費すべき磁束を消費してしまい、結果としてプラズマの立ち上げを妨害してしまう。従って、この機構を実際のトカマク装置に適用するためには、コイルリングを分割し鞍型にして配置することが好ましい。また、分割することにより、コイルの設置や炉の保守が容易になるという利点もある。
以上を踏まえ、本研究では複数に分割した高温超電導鞍型コイル(以下、鞍型コイル)を設置した際のプラズマ挙動を評価することを目的とする。このためには、外部磁場の変動により鞍型コイルに誘起される電流の応答を定量的に評価できることが重要である。そこで様々な鞍型コイルの形状・配置について、外部磁場変動に対する応答を調べる実験と数値解析を実施し、解析コードの妥当性を検証した。さらに、プラズマと超電導倉型コイルとの連成解析を行い、プラズマの安定化効果を評価した。その結果、ITER/EDAプラズマの場合、超電導コイルをトロイダル方向に20分割した場合でも、十分なプラズマ位置安定化効果を発揮できることが分かった。