UTNL-W-0011J
Section 2.1

2. 研究活動

2.1 原子炉本部研究部門


(1) 構成

教授       班目 春樹
助教授      岡本 孝司
助手       田中 源太郎
博士研究員    高  漢瑞 (リサーチアソシエイト)
博士研究員    杉井 康彦 (研究機関研究員)
博士研究員    佐藤 聡  (研究機関研究員)
受託研究員    二木 正一郎 (東京電力)
受託研究員    友澤 秀征 (京都セミコンダクタ)
協力者      助川 敏男(当研究施設技術官)
大学院生
 博士課程 2年 櫻井 克巳
      1年 洪 性大
 修士課程 2年 新 康弘、秋山 寛
      1年 森元 雄一郎
 学部   4年 石津 崇章、太田 順

(2) 主な研究活動

多液面区分線形振動系のカオス的挙動に関する研究
森元雄一郎・佐藤聡・班目春樹・岡本孝司
多液面系を有するSPWR(System-integrated PWR)の 区分線形系とは、区間的な運動は線形であるが区間の接続点の非線 形性ゆえに系全体の運動としては非線形となる系である。このよう な系は、工学的には衝突、摩擦、リミットスイッチによる制御等を 含む系として多く見られ、数学的には非線形系にもかかわらず解析 的に解を求めることができる。そのため大変興味深く、その複雑現 象を理解することは有意義であると考えられる。 将来型の受動安全炉 の安全システムを模擬した実験体系(液柱振動系)において、液面 の位置によりカバーガスの流出入が切替わり、液柱が複雑に振動す ることが分かっている。この系は前述した区分線形系であるとみな すことができ、複雑な振動は決定論的カオスによるものではないか というアプローチが、実験や解析によってなされてきた。申請者は まず、液柱振動系に関する一連の研究を体系立て、今後の研究課題 を明確にした。その上で、液柱振動系が複雑な挙動を示す本質的な 原因であろうガス流出入の切替えのみに焦点をしぼった区分線形モ デルを提案し、解析を行った。結果として、実験結果の特徴と一致 する振動波形が得られ、またパラメータの変化により分岐現象を示 すことが分かった。次に分岐の性質を調べるため、新たな解析手法 と分析ツールを提案、開発し、分析を行い、前述のモデルの分岐の 詳細な性質を明らかにした。またこのツールは二次元離散系の分岐 現象を解析するために汎用することもできる。一方で、前述のモデ ルを一次元近似することによる分岐現象の解析も行っている。 以上 の結果をもとに、精度が高いデータが得られかつガス流出入の切替 えによるもの以外の非線形性を極力排除した、新たな実験装置を提 案、設計した。現在実験中である。今後実験を中心とし並行して モデル化による解析を行い、液柱振動系の非線形振動現象を解明していく。
超臨界二酸化炭素における強制対流熱伝達の可視化測定に関する研究
桜井克巳・太田順・岡本 孝司・班目 春樹
超臨界圧水を冷却材に用いた新型の原子炉が現在開発中である。 超臨界流体の熱伝達特性は通常の未臨界の流体に比して極めて特異で あり、臨界点近傍において熱流速や流量に依存した伝熱促進、あるいは 劣化については広く知られている。一方流体挙動については条件に 応じて単相流、二相流どちらの性質も示すため、未解明な部分もある。 またこの性質は水と二酸化炭素では類似している。 本研究では超臨界圧二酸化炭素の強制ループを用い、垂直上昇矩形流路に おける二酸化炭素の強制対流熱伝達を、干渉計などの光学的手法によって 可視化計測している。
プラズマディスラプション時の第一壁の挙動に関する研究
助川 敏男、岡本 孝司、班目 春樹
核融合炉のダイバータや第一壁はプラズマからの熱流、イオン及び中性粒子などの 照射などを受け、物理及び化学スパッタリング、溶融、蒸発などによって損耗する。 しかし、プラズマと炉壁の間では、蒸発した炉壁粒子が炉壁に再付着することや 蒸発した炉壁粒子が熱流を遮断したりするため正味の損耗過程は複雑である。 ITERではこれらを考慮して得られた計算結果から、ダイバータターゲットには 炭素繊維複合材CFC(Carbon Fiber Composite)、第一壁にはベリリウム、バッフル板 及びドームにはタングステンを使用することになっている。しかし、プラズマ対向壁の 寿命は正常放電時の損耗に加えディスラプション時の損耗によって決定され、 その損耗過程はさらに複雑であり、寿命を評価する上で実験と計算に関するデータが 少ないのが現状である。本研究はカーボン製プラズマ対向材料とプラズマの相互作用を 評価するため、MPD(Magnet-plasma-dynamic)アークジェットで高熱負荷を与え、 飛散した黒鉛粒子が放出する発光スペクトルを測定し、その振る舞いを評価する ことにある。具体的には異方性、等方性及び繊維複合材等の熱伝導率の違った 各黒鉛を使用し、放出する発光スペクトルを分光分析すると共にその蒸発量の 測定を行い、同時にそれぞれの黒鉛において繰り返し高熱負荷による 損耗評価を行った。
自由液面と乱流場相互作用
田中 源太郎、石津 崇章、岡本 孝司、班目 春樹
自由液面を有する体系、例えば種々の工業プラント内等において、 気液界面での流場と液面の相互作用は、液面の自励振動や旋回渦による気泡巻き込み といった非線形現象を引き起こす要因となる。 これらの非線形界面現象は、ループ内流体の流動特性を著しく低下させるとともに、 プラント内配管等に深刻な影響を与える。 これらの現象の回避のためには、気液界面での流場と液面との相互作用の 解明が必要である。現在、数値解析手法の充実により 様々な体系での流体計算が可能である。 流れの数値解析において、自由液面を有する体系における 流動計算は、波動する液面を境界条件としなくてはならない。 しかしながら、準静的液面を除いてこの 境界条件を正しく与えるような知見は未だ得られていない。 従来、自由液面と液体内部の流速との相互作用を計測した研究は 主としてLDVを用いて行われている。 ところが、これらの研究のほとんどは、液体側の流速分布を測定 しているに留まっており、液面変動の同時測定は行われていないため、 液面の変動と内部流速分布の相互作用は明らかにされていない。 また、その相互作用は多分に3次元的である。LFDのような 液位計やLDVといった流速計は測定の精度は高いが、点計測である というデメリットがあり、液面と流場の相互作用を解析する上では、 十分な情報を得ることができない。 本研究では、自由液面の3次元計測手法である Speckle法を開発した。Speckle法は簡易な光学系で液面の形状を 測定することができるuniqueな手法である。 このスペックル法を用い、Stereo-PIV等の他の流速測定法と 組み合わせることにより 自由液面と液面下流場の高精度同時計測システムを構築を推進する。
噴流体系における反応性流体の可視化計測
新 康弘、杉井 康彦、岡本 孝司、班目 春樹
乱流混合の影響を受けながら化学反応が進行する現象は、各種工業容器内の各種液体-液体反応流れに多くみられ、例えば、原子炉熱交換機内でのナトリウム冷却水漏洩における配管内でのナトリウム-水反応が挙げられる。その解明は工学的応用上きわめて重要であり、特に液相中の化学反応過程では、乱流混合と化学反応干渉が同時に起こるため、流体工学ならびに反応工学上非常に興味深い乱流拡散場を形成する。あらかじめ互いに混合されていない乱流場では、それぞれの反応物質を含む乱流塊が不均質に混ざり合って存在し、それらの流体塊が接する界面領域で化学反応が分子拡散を通して進行する。それゆえ、二次以上の不可逆反応を伴う反応乱流場では、この界面がいかに小スケール領域まで複雑に混合・変形され、また界面領域に生成された反応生成物質がいかに速く未反応物で置き換えられるかが系全体の反応の進行速度を決定する。このような流れ場を明ら反応性乱流場の研究は最近非常に活発化しており、乱流混合と化学反応のメカニズムが明らかにされつつあるが、反応を伴う乱流拡散場を明らかにするために、乱流拡散場における化学反応の影響を調べる必要がある。そこで本研究では、流れ場に基本的かつ実用上よくみられる軸対称噴流において、pH分布の計測としてLIF、速度分布測定としてPIVを用い、化学反応による拡散への影響を測定することに本手法が有効であることを示す。
電気粘性流体の可視化
秋山 寛、岡本 孝司、班目 春樹
電気粘性流体(ER流体)は電界を印加することにより, 流体の見かけ上の粘度を可逆的に変化させることのできる流体である. この性質はER効果と呼ばれている. 電界を印加することによって流体中の粒子が分極し, 静電気力によって粒子同士は互いに引き付け合う. その結果, 極板間には鎖状構造が形成される. これが流動抵抗となって見かけ上, 流体の粘度は増加する. 本研究では、このER流体の挙動をレーザーシートによって可視化し その挙動を解析した。 その結果、従来報告されていない堆積層の形成を発見し、 その挙動が流体の挙動に大きく影響することを明らかにした。 また、堆積層の発生機構に関して、議論を行い 流体力と静電気力の比によって説明できることを示した。
電磁ポンプの流動不安定性に関する研究
二木 正一郎、岡本 孝司、班目 春樹
θz2次元電磁流動解析コードを開発して、環状流路型電磁ポンプについて各種のパラメーターサーベイを行った。そして、流速と磁場の分布、ポンプ効率、吐出圧、インピーダンス等の計算結果に基づいて、電磁ポンプの流動現象について総合的に検討するとともに、誤差の原因となるr方向(流路の厚さの方向)の現象を摘出した。今後は、理論的な計算に基づいてr方向の現象に関する補正項を導入して、実際の電磁ポンプの特性を予測できるようにすることを目指している。