放射線ホルミシス効果

大量では有害な作用をするものが、わずかな量だと人体に生理的な刺激を与えて活発化させる現象を ホルミシス効果 と呼んでいます。毒物学には昔から「少量の毒物は刺激的である」という法則があるくらいで、薬品や抗生物質はこの法則に照らして使われています。

(練習問題) ホルミシス効果の例をあげてみましょう。 → 答え

同じように、少量の放射線は生物の活動を活発にするらしいことが最近わかってきました。放射線が照射されて生物の中でイオン化などが起こると、ホルモン作用が活発になってかえって人体の防御機構が働き出すらしいのです。放射線を自然の放射線のレベルよりも減らした条件では、生物の成長が遅れる、という実験結果もあります。

これらのことから、人体への放射線の影響は下の図のように考えられています。低線量の範囲では、ホルミシス効果で反応(成長・健康度・免疫性・回復力など)が高まります。勿論、あまり高い放射線量を浴びると、反応は低下し、死に至ります。環境放射線のレベルよりも低い放射線でも、刺激がなくなるので反応が低下します。(この曲線は、前のページの金属元素の影響の図とよく似ていることに気がついたでしょうか?)

この図から、私たちは 低線量の放射線はむやみに恐れる必要が無い ということを学ぶことが出来ます。

放射線ホルミシス効果は実用上も大切です。例えば放射線治療を行う時に、一度にあびると障害を起こしてしまうような大量の放射線を照射する前に、少しの放射線を当てて人体を活性化しておいてから放射線治療を行うと、放射線障害が抑制される、ということも実験的に分かってきました。お医者さんはこのことを使って、最初に少量の放射線をあてて人体を活性化させておき、放射線治療を試みる技術を開発しようとしてます。まさに“毒をもって毒を征する”ということわざの放射線版です。

また腫瘍などの治療を行う場合に、ホルミシス効果を利用して人体の反応度を高めることによって、自然の治癒能力を引き出すという試みも可能です。

こういう実用上の効果は今盛んに研究されているところですが、これから大いに期待されます。

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