6 おわりに

 研究炉は世界的に困難な状態にある。施設や職員が老朽・老齢を迎える頃に原子力開発に陰りが射したという共通な社会状況の中で、既にシャットダウンされたもの、運営に苦しんでいるもの、いずれ状況挽回するまでとなんとか持続しようとしているもの、営業色を強めて成功しているものなど多様である。一方研究炉は科学の基本的な装置であるとの認識によって、新しい研究炉を建設する計画も少なくない( 新研究炉の計画 はここから見ることができます)。このような場合常に原子炉と加速器中性子源の比較がされる( 中性子源としての加速器と原子炉の比較 )。特に先端研究指向の強い今の日本では、問題ありげな研究炉よりも、目新しくて面白そうな加速器に目が向きやすい。これまで経験しなかったことをやってみたいのは研究者の良き性向である。やるが良い。だがその時に、加速器か原子炉かという二者択一をすることは正しくないであろう。社会にとって基本的に大切な道具(=鍋釜)は何かというインフラストラクチャーの問題を見失うことになる。

 研究炉では、ウラン燃料の確保と処分、核安全保障などにおいて特有の問題を持っている。使用済み燃料の処分や既に運転を止めた研究炉の廃炉措置も出来ない状態で、研究炉の発展的な利用を、と云うのは、これまでどおり問題を先送りにしたままイイトコ取りするようなものである。しかし、この問題は国の施策に待つところが大きい。先端研究だなどと浮かれたことを云っていないで、持続可能な社会のために、しっかりと考えて足下を踏み固めて欲しいものである。

 

 

謝辞

本資料は、「研究炉に関する検討懇談会」(日本原子力産業会議)で勉強させていただいたことに多くを負っていることを記して謝辞を表します。

また、本資料は RIST News No29 (財 高度情報科学技術研究機構、2000年3月31日発行)へ寄稿したものを原型としており、それにイラスト等を付加したものである。

 

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