農産業への利用

生き物に対して、低線量を少し上回る放射線をあてると、当然生物としての活性が低下しますが、このことを利用して食物の収穫や貯蔵を行う技術も開発されています。

例えば、収穫された穀物や野菜に適度の放射線をあてると芽が出ることを遅らせることが出来ます。これは、ジャガイモやタマネギなどの野菜を生きたまま長く貯蔵することに使われています。また、穀物に紛れ込んだ昆虫などを放射線で退治すると、貯蔵中に穀物が食べられてしまうことを防げます。このような目的の放射線の利用を食品照射と呼んでします。

ヒトは2,3シーベルトの放射線で不妊になりますが、放射線による不妊は昆虫などでも起こります。このことを使って害虫を退治することが行われています。害虫の雄に不妊になる程度の放射線をあてて放してやると、虫は普通に生殖活動をするのですが、受精した卵が孵らないので子孫を減らすことが出来るのです。このような方法で果物の害虫であるウリミバエやミカンコミバエなどを根絶させる方法が実用になっています。この方法では駆除の対象になる害虫だけに放射線があてられます。農薬を使って害虫を駆除する方法に比べると、他の生態系に与える影響は少なく、環境汚染の心配もありません。

世界の人口が急激に増えていきつつある現在、害虫を退治し、収穫された作物の貯蔵期間を延長し、貯蔵の効率を高めることは重要なことですが、そのために、放射線は非常に役に立っているのです。

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