熱中性子捕捉療法

中性子が引き起こす核反応を利用して治療を行う方法もあります。例えば、脳に悪性腫瘍の出来た患者にホウ素を含んだ薬を投与します。この薬は腫瘍の細胞には入り込んでいきますが、脳細胞にはとりこまれません。脳細胞は異物が進入してくることを拒否する関門を設けているためです。このような状態で中性子を照射すると、ホウ素が中性子を吸収してアルファ線とリチウム粒子の2つの破片に分裂するのですが、この分裂片はちょうど地雷が周りを破壊するように、近くの細胞を攻撃して壊します。こうして、腫瘍の細胞だけが破壊されるので、効果的な治療が行われます。組織の中に複雑に発達して、メスで切り取る外科的な方法も、イオンビームでたたく方法も歯が立たないような悪性の腫瘍でも、熱中性子捕捉療法は有効です。これはホウ素が取り込まれた部分の近くの数ミクロンの部分だけが壊されるという巧妙な仕掛けであるためです。あたかもミクロンのメスとでもいうべきでしょう。

これで、「2.5 医療への放射線の利用」を終わります。 第2章 はこれで終わりです。

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