UTNL-W-0009J
Section 2.1

2. 研究活動

2.1 原子炉本部研究部門

(1) 構成

教授 班目 春樹
助教授 岡本 孝司
助手 田中 源太郎
研究機関研究員 高  漢瑞、高木 敏幸、飯田 将雄
受託研究員 二木 正一郎
協力者 助川 敏男(当研究施設技官)
大学院生
博士課程3年 ビストリツェアヌ ミハイ、松山 敬介
1年 櫻井 克巳
修士課程2年 佐々木 俊武、徳田 剛、中務 貴之
1年 新 康弘、秋山 寛
学部学生4年 森元 雄一郎

(2) 主な研究活動

多液面区分線形振動系のカオス的挙動に関する研究

森元雄一郎・松山敬介・班目春樹・岡本孝司

多液面系を有するSPWR(System-integrated PWR)の均圧注入系(PBIS:Pressure Balanced Injection System)は、 加圧ライン(PL管)と注入ライン(IL管)により構成されており、LOCA 時に格納容器内のボロン水 を原子炉容器内に両容器内の圧力バランスを利用して受動的に注入し炉心を冷却する系である。この多液 面系を模擬した実験体系において、ある特定の条件を与えることによって 液位やタンク内圧力が減衰振動を繰り返し、しかもその繰り返し周期 が一見不規則に変動する現象が発見された。体系は、メインタンク、サブ タンク、および垂直管内に液面が存在し、多液面系を構成している。メインタンク上部からの窒素ガス流入に よってメインタンク内の液位は押し下げられる。 これが垂直管下端以下になると、垂直管を通したガス噴出が繰り返し行われる。 この系は、液面の位置によってカバーガスの流入出が切換わる。振動系としては、カ バーガスの流入出による区分系と考えることができる。 このような単純な体系における振動の複雑な挙動の調査は、流体工学、ならびに 振動工学にとって興味深く有義であると思われる。一方、近年比較的低次 元で記述される非線形振動系の挙動に着目した研究が工学の分野に限らず種々の分野においていくつも報告されており、 最近では非常に注目されているカオス問題とも関連し大変興味深い問題である。その中で も、機械や構造物に見受けられる区分的に線形な系、例えば衝突、がた、クーロン摩擦などを持つ系では、接続点の非線形性ゆえに 系挙動は複雑となることが知られている。そこで、先の多液面系を非常に単純で 区分的に線形ではあるが接続点の非線形性のために複雑な挙動を示すモデル方程式を導出し、主にパラ メータの変化による分岐現象について考察した。

超臨界二酸化炭素における強制対流熱伝達の可視化測定に関する研究

高 漢瑞・桜井克巳・岡本 孝司・班目 春樹

超臨界圧水を冷却材に用いた新型の原子炉が現在開発中である。超臨界流体の熱伝達特性は通常の未 臨界の流体に比して極めて特異であり、臨界点近傍において熱流速や流量に依存した伝熱促進、あるいは劣化については広く知られている。一方流体挙動については条件に応じて単相流、二相流どちらの性質も示 すため、未解明な部分もある。またこの性質は水と二酸化炭素では類似している。本研究では超臨界圧二 酸化炭素の強制ループを用い、垂直上昇矩形流路における二酸化炭素の強制対流熱伝達を、干渉計などの光学的手法によって 可視化計測している。

プラズマディスラプション時の第一壁の挙動に関する研究

徳田 剛、助川 敏男、岡本 孝司、班目 春樹

融合炉のダイバータや第一壁はプラズマからの熱流、イオン及び中性粒子などの照射などを受け、物理 及び化学スパッタリング、溶融、蒸発などによって損耗する。しかし、プラズマと炉壁の間では、蒸発した炉壁粒子が炉壁に再付着することや 蒸発した炉壁粒子が熱流を遮断したりするため正味の損耗過程は複雑である。 ITERではこれらを考慮して得られた計算結果から、ダイバータターゲットには炭素繊維複合材 CFC(Carbon Fiber Composite)、第一壁にはベリリウム、バッフル板及びドームにはタングステンを使用する ことになっている。しかし、プラズマ対向壁の寿命は正常放電時の損耗に加えディスラプション時の損耗によって決定され、 その損耗過程はさらに複雑であり、寿命を評価する上で実験と計算に関するデータが少ない のが現状である。本研究はカーボン製プラズマ対向材料とプラズマの相互作用を評価するため、 MPD(Magnet-plasma-dynamic)アークジェットで高熱負荷を与え、飛散した黒鉛粒子が放出する発光スペク トルを測定し、その振る舞いを評価することにある。具体的には異方性、等方性及び繊維複合材等の熱伝導率の違った 各黒鉛を使用し、放出する発光スペクトルを分光分析すると共にその蒸発量の測定を行い、同 時にそれぞれの黒鉛において繰り返し高熱負荷による損耗評価を行った。

自由液面と乱流場相互作用

田中 源太郎、岡本 孝司、班目 春樹

自由液面を有する体系、例えば種々の工業プラント内等において、気液界面での流場と液面の相互作用 は、液面の自励振動や旋回渦による気泡巻き込みといった非線形現象を引き起こす要因となる。これらの 非線形界面現象は、ループ内流体の流動特性を著しく低下させるとともに、プラント内配管等に深刻な影響 を与える。 これらの現象の回避のためには、気液界面での流場と液面との相互作用の解明が必要である。 現在、数値解析手法の充実により様々な体系での流体計算が可能である。 流れの数値解析において、自由液面を有する体系における 流動計算は、波動する液面を境界条件としなくてはならない。しかしながら、 準静的液面を除いてこの 境界条件を正しく与えるような知見は未だ得られていない。従来、自由液面と液体 内部の流速との相互作用を計測した研究は主としてLDVを用いて行われている。 ところが、これらの研究のほとんどは、液体側の流速分布を測定 しているに留まっており、液面変動の同時測定は行われていないため、 液面の変動と内部流速分布の相互作用は明らかにされていない。また、その相互作用は多分に3次元 的である。LFDのような液位計やLDVといった流速計は測定の精度は高いが、点計測であるというデメリット があり、液面と流場の相互作用を解析する上では、十分な情報を得ることができない。 本研究では、自由液面の3次元計測手法である Speckle法を開発した。Speckle法は簡易な光学系で液面の形状を測定すること ができるuniqueな手法である。このスペックル法を用い、Stereo-PIV等の他の流速測定法と組み合わせる ことにより 自由液面と液面下流場の高精度同時計測システムを構築を推進する。

RBFネットワークを用いた断層画像の再構築

高木敏幸、岡本孝司

観測領域や観測時間等が制限され、対象とする媒質から十分な投影データ数が得られない場合、従来の手 法では対象を再構築することは非常に困難である。このような対象を再構築するには、対象に関する事前知 識に基づいて情報量の不足を補間する必要がある。本稿では、制限されたデータからラジアル基底関数(Radial Basis Function、以下、RBFと略す)ネットワークに対象の媒質に関する事前知識を組み込んだ学習 則を提案し、対象の断層画像を再構築する手法を示した。

相互結合型ネットワークによる流れ場の速度ベクトル分布の測定

高木敏幸、岡本孝司

濃度相関法や輝度差累積法は設定する画素マトリクスのサイズが大きい場合、測定画素点における空間分 解能の低下が避けれられず、物体等の境界壁近傍での速度計測が困難になる。逆に、画素マトリクスのサ イズを小さく設定した場合、設定領域と探索領域の間に十分なパターン間の距離や相関が得られないため過誤ベクトルが生成 される頻度が高くなる.そこで、本稿では濃度相関法や輝度差累積法によって得られ た、最大相関値あるいは最大類似度を示す領域だけでなく、第2、第3の候補を示す領域に対しても注目し、相互結合 型ネットワークによって,これらの候補領域から最適な領域を選出し,速度分布を求める高解像度 のPIV手法を提案した。

ファジィ推論によるPIVモデル

高木 敏幸、岡本 孝司

本研究では,動的な評価関数を用い一連の遺伝的操作によって粒子の対応付手法を提案した.さらに,こ れらの対応づけられた粒子の移動量からファジィ推論によって流速分布の推定する手法を提案する.ここで は,採取した画像データから一様に速度ベクトルが得られていない場合を考慮し,データの分布に応じたファジィ分割を行 う手法についても示す.さらに,連続の式を緩やかに満足するような制限を与え,画像中の流 速分布を再構築する.PIV標準画像を用 いて解析を行い,本手法の有効性に関して議論を行った.

競合型ニューラルネットワークを用いたPTVアルゴリズム

高木敏幸、岡本孝司

本研究では粒子の対応付けを実現するため,競合型ニューラルネットワークを用い,第1画像の粒子と、第2 画面の粒子関に結合荷重を設定し競合学習によって粒子間の結合強度により粒子の対応づけを行う手法 を提案した.この粒子間の結合強度の更新式に近傍粒子の結合荷重の変化量を与えることによって、粒子間の距離のみによっ て粒子が対応付けられることなく、近傍粒子の流れにあった粒子が対応付けが得られ ることを示した。最後に,PTVアルゴリズムの性能評価のためにインターネット上に公開されているPIV標準画像を 用いて本手法による有用性を示した.

疎な流速ベクトルからのファジィ推論による3次元流速分布再構築

高木敏幸、岡本孝司

本研究では3次元流れ場に対して,制限された状況において測定された粒子の流速ベクトルからファジィ推 論によって3次元流れ場全体の流速分布の推定する手法を提案した.また,空間中に一様に速度ベクトル が得られていない状況を考慮し,データの分布に応じたファジィ分割を行う手法を示した.さらに,分割した格子状のファ ジィ分割空間の大きさに応じて連続の式を満足する制約条件を与え,粒子の移動量が得られな い領域に対しても滑らかに流速分布を再構築した.本手法をPIVの性能評価のためにインターネット上に公 開されている3次元PIV標準画像を用いて解析を行い,本手法の有効性に関して議論を行った.

電気粘性流体の可視化

中務 貴之、秋山 寛、岡本 孝司、班目 春樹

電気粘性流体(ER流体)は電界を印加することにより,流体の見かけ上の粘度を可逆的に変化させることのできる流体である. この性質はER効果と呼ばれている.電界を印加することによって流体中の粒子が分極し,静 電気力によって粒子同士は互いに引き付け合う.その結果, 極板間には鎖状構造が形成される.これが流動 抵抗となって見かけ上, 流体の粘度は増加する.本研究では、このER流体の挙動をレーザーシートによって可視化し その挙動を解析した。 その結果、従来報告されていない堆積層の形成を発見し、その挙動が流体 の挙動に大きく影響することを明らかにした。また、堆積層の発生機構に関して、議論を行い流体力と静電 気力の比によって説明できることを示した。