UTNL-W-0009J
Section 2.3

2. 研究活動

2.3. ビーム物質相関部門

(1) 構成

教授 勝村 庸介
助教授 上坂 充
柴田裕実(原子力総合センター)
客員助教授 中島 一久(KEK)
助手 渡部貴宏
リサーチアソシエイト 呉 国忠
研究員 李 細峰、小林 鉄也
協力者 吉井康司、上田 徹(当研究施設ライナック管理部)
大学院生
博士課程2年 木下 健一、ナスル ハフス
修士課程2年 菅原 淳、室屋 裕佐
1年 奥田 泰之
学部学生4年 寺田 洋平、西原 鉄平

(2) 主な研究活動

新レーザーシステムにおけるフォトカソードRF電子銃の性能評価

小林鉄也,上坂充,上田徹,菅原淳,勝村庸介,室屋裕佐,吉井康司,渡部貴宏

フォトカソードRF電子銃は、 従来の熱電子銃に比べ、低エミッタンスのシングルバンチビームの生成が可能であり、次世代高エネルギー加速器などの入射器として注目を集めている。当施設では、昨年、サブピコ秒パルスラジオリシス計画のため、新たなフェムト秒T3レーザーシステム及び新15MWクライストロンを電子ライナックに導入した。これら新システムにおいて、フォトカソードRF電子銃の性能評価を改めて行った。その結果、世界的にもトップレベルである7nCもの大きな電荷量(量子効率)の電子ビームが得られた。大電荷量を得るには真空度の向上が効果的あることが分かった。これらの結果から、放射線科学実験への応用利用にも有効性が認められる。2年半以上の運転において銅カソードのQEに劣化は見られず、その耐久性を確認できた。

サブピコ秒電子パルス・フェムト秒レーザーの高精度同期

渡部貴宏、室屋裕佐、菅原淳、上田徹、吉井康司、小林鉄也、勝村庸介、上坂充

複数の極短量子パルスを用いた研究分野は、サブピコ・ピコ秒パルスラジオリシス、ピコ秒X線回折、レーザー航跡場加速等幅広いが、いずれも両パルスの高精度同期が必要不可欠な課題となっている。従来のライナック・レーザー同期精度は3.5ps(rms)であったが、本研究においてサブピコ秒同期が可能な新同期システムの設計・構築を行った。最大のジッター要因は、基準RF・レーザーオシレータ間ジッターおよびクライストロン間相互ジッター(いずれも数ps)であり、新0.3TWフェムト秒レーザーおよび高出力クライストロンの導入により、それぞれ1ps以下に抑えた。システム構築後同期実験を行った結果、1.9ps(rms)までの同期精度を確認すると共に、今後ライナック冷却系の安定化を図ることでサブピコ秒同期が達成できることを確認した。

フラクチュエーション法による極短電子バンチ評価

渡部 貴宏、 上坂 充

電子バンチ中の電子の位置のバンチ毎のランダムさに起因する、インコヒーレント放射の変動から電子バンチ長を評価するフラクチュエーション法のシミュレーションを行った。本手法にはバンチ長の評価の物理的限界がないのが魅力的である。現在、レーザープラズマライナック方式によって、10fs程度のバンチ長の電子バンチの生成を目指した研究が行われているが、これはストリークカメラの時間分解能200fsを大きく下回っている。そこで新たな計測手法として注目されている。可視波長の光を利用でき、シングルショットでバンチ幅とエミッタンスを同時に測ることができる。

超臨界水のパルスラジオリシス

勝村庸介、呉国忠、室屋裕佐、寺田洋平、李細峰

パルスラジオリシスを用いて、超臨界水を含め、室温から400℃までの温度範囲で水和電子や炭酸ラジカルなどと挙動を調べた。水和電子の吸収スペクトルが温度の上昇に伴い、吸収ピークが著しく赤外領域にシフトすることが分かった。ところが、炭酸ラジカルの吸収バンドが温度に影響されなかった。水和電子やラジカルのG値と吸収係数の温度依存性も検討した。超臨界水の物性が室温の液体水とかなり違うため、溶媒とラジカルとの相互作用も大きく変わる。

ポンプ・プローブ法を用いる超高速反応の研究

室屋裕佐、渡部貴宏、呉国忠、李細峰、小林鉄也、菅原淳、上田徹、吉井康司、上坂充、勝村庸介

超高速な放射線誘起反応の初期過程解明に向け、本研究ではポンプ・プローブ方式によるサブピコ・ピコ秒パルスラジオリシスシステムの設計・構築を行った。従来時間分解能は数10psに留まっていたが、本システムはこれを1桁上回るものである。時間分解能にはポンプ・プローブのパルス幅、同期精度等が支配的である。ポンプには18Lライナックで生成可能となっているサブピコ秒電子パルス、プローブには従来のチェレンコフ光に代わりフェムト秒レーザーを用い、これらを新同期システムにおいてサブピコ秒同期を行うことで高時間分解能化が可能である。システム構築を進めつつ、非圧縮のピコ秒電子ビーム、フェムト秒基本波レーザーを用いた予備的実験を行った結果、30psの時間分解能を確認した。依然改善の余地を残しており、今後更なる高時間分解能化を目指す。

時間分解X線回折に関する研究

木下 健一、西原 鉄平、上坂 充

当施設では現在、極短パルスビーム生成技術の発展を後ろ盾に、原子の高速過渡現象(コヒーレントフォノン、熱膨張、相転移、衝撃波生成等)を解明する為のピコ秒時間分解X線回折システムの構築を目的とした研究を進めている。システムは、12TW50fsレーザーによるレーザープラズマX線をプローブ光に、レーザー光そのものをポンプ光に用いて組まれている。現在までにX線発生から静止画像取得までの準備実験と、原子動画像化のシミュレーションが行われており、目下、動画像取得の為の実験が進められているところである。

レーザープラズマライナックによる電子・イオンビーム生成

奥田泰之、Nasr Hafz、木下健一、 渡部貴宏、 小林鉄也、 上田徹、 吉井康司、 中島一久、 上坂充

従来より、当施設ではライナックによる超短電子パルスの生成研究が行われてきた。本研究では、平成11年度より、当施設に設置されているフェムト秒高速量子現象研究設備の一つであるフェムト秒高出力レーザーを用いて、ライナックを使用しない、フェムト秒超短電子パルスの生成を目指すものである。数値解析の結果では25MeV,12fs,1nC,5πmm・mradの電子パルスが生成されており、平成12年度中に実験による検証が行われる。