UTNL-W-0009J
Section 2.4

2. 研究活動

2.4. 原子炉設計工学研究部門

(1) 構成

教授 岡 芳明
助教授 越塚 誠一
助手 斉藤 勲 ・ 岡村 和夫 ・ 向原 民
研究機関研究員 劉 杰
技術官 助川 敏男 ・ 上田 徹 ・ 貴家 憲彦 ・ 寺門 勉 ・ 間渕 幸雄 ・ 仲川 勉
大学院生
博士課程3年 池田 博和
2年 近澤 佳隆
1年 ホ・ソン
修士課程2年 松浦 正治 ・ 白濱 寿敏
1年 野村 克也
学部学生4年 石渡 祐樹

(2) 主な研究活動

超臨界圧軽水冷却高速炉の増殖性の研究

石渡 祐樹, 岡 芳明, 越塚 誠一

 超臨界圧軽水冷却炉は、超臨界圧水を冷却材とし、炉心で加熱された冷却水の全量がそのままタービンへ送られる貫流直接サイクル型の原子炉概念である。現行の軽水炉よりもシステムが簡素で熱効率も高く、経済性の飛躍的な向上が期待できる。炉心の燃料を稠密に配置すれば高速炉とすることができるが、これまでの設計では増殖比が1.0をわずかに上回る程度であった。本研究では、まず、様々な炉心のパラメータが燃料の増殖に与える影響を調べた。次に、燃料棒を太径にし、ブランケット燃料集合体を練炭型(冷却水が円管内を流れ、その周囲を燃料が囲むもの)にすれば、燃料体積比を向上することができ、増殖比1.04以上を達成できることがわかった。なお、練炭型ブランケット集合体は、従来のペレット燃料では製作することが難しいが、振動充填方式を採用すれば製作可能であると考えられる。また、振動充填方式はコスト低減にも寄与する。

超臨界圧軽水冷却炉の安定性の研究

白濱 寿敏, 岡 芳明, 越塚誠一

超臨界圧軽水冷却炉では、炉心内で相変化は生じないものの、擬臨界温度を通過するために冷却水の密度変化が大きい。そのため、沸騰水型軽水炉で検討されているような、チャンネル水力安定性や炉心安定性が問題となることも考えられる。そこで、超臨界圧軽水冷却炉の安定性を周波数領域で解析する計算コードを開発した。コードでは超臨界圧水を冷却材としていることから単相流を扱う必要があり、従来の沸騰水型軽水炉で扱っていた二相流とは別の方程式が必要である。また、貫流直接サイクルであることも、再循環ループを有する従来の沸騰水型軽水炉とは異なるところである。開発したコードを用いて超臨界圧軽水冷却熱中性子炉のチャンネル水力安定性と炉心安定性をおこなったところ、起動時および定格運転時のいずれにおいても減幅比は現行軽水炉の基準を満たしていることがわかった。今後、設計パラメータに対する感度解析、高速炉の場合の安定性、変圧起動方式の際に現れる二相状態での安定性、についても検討する予定である。

超臨界圧軽水冷却炉のサブチャンネル解析と不確かさの解析

向原 民, 岡 芳明, 越塚 誠一

原子炉では、出力分布が径方向に一定でなかったり、流路面積が一様でないなどの場合に、冷却水の流量分布に偏りが生じるなど、設計値からの変動を生じることが考えられる。これらは設計上の余裕の範囲内に収まる必要があるが、超臨界圧軽水冷却炉についてどの程度こうした余裕を見込む必要があるかは系統的に検討されてはいなかった。特に、これまでの設計では、炉心の各領域の燃料棒1本分の流路(サブチャンネル)を取り上げて熱流動解析をおこなっていたため、サブチャンネル形状の統計的な誤差などを検討できなかった。そこで、超臨界圧軽水冷却炉の燃料集合体1体を扱えるサブチャンネル解析コードを新たに開発し、燃料集合体内の非一様性や製作上の統計誤差の影響を調べた。超臨界圧軽水冷却炉では炉心内での密度変化が大きいため、出力の高いサブチャンネルでは冷却水の膨張によって周囲のサブチャンネルに冷却水が流出する傾向がある。そのため、液体金属冷却高速増殖炉と比較すると、燃料集合体中心部から周辺部への冷却水の流出が生じ、中心部では被覆温度が相対的に高くなる。ただし、燃料周辺部でのグリッドスペーサの圧力損失を高くしたり、グリッドスペーサにフィンを付けるなどして混合促進をおこなうと、こうした問題点は大幅に改善できることが分かった。今後は、製作上の統計誤差、および、設計上考慮すべき余裕について検討をおこなう予定である。

超臨界圧軽水炉におけるLOCAの感度解析

趙 國昌, 岡 芳明, 越塚誠一

これまでの超臨界圧軽水冷却炉の安全解析より、冷却材喪失事故(LOCA)によって設計パラメータが制約されると予想される。特に、稠密炉心を採用する高速炉では、LOCA時の再冠水の特性より炉心高さの上限が決まってしまい、炉の大型化が制限されてしまうことも考えられる。そこで、超臨界圧軽水冷却炉のLOCA解析コードSCRELAを用いて設計可能なパラメータ範囲を調べた。最高線出力密度、炉心高さ、燃料棒間距離、燃料棒直径、自動減圧系の遅れ時間と流路断面積、ダウンカマ幅と高さ、下部プレナム容積、蓄圧注入系容量、および低圧注入系容量に対する被覆最高温度の感度解析をおこなった。燃料棒配置の稠密化によって可能な炉心高さは減少するが、ダウンカマ高さなどの圧力容器の設計パラメータを調節すれば、高速炉であっても1500〜1700MWeクラスの大型炉が設計可能であることが示された。

粒子法を用いた蒸気爆発素過程の数値シミュレーション

池田 博和, 劉 杰, 越塚 誠一, 岡 芳明

原子炉のシビアアクシデントにおいて懸念されている蒸気爆発は、強い衝撃波を伴うためその機械的エネルギーによって圧力容器や格納容器を破損することが考えられる。これまでの研究では、粒子法(MovingParticle Semi-implicit, MPS Method)を用いた溶融物細粒化過程の2次元シミュレーションより、溶融物細粒化のメカニズムとしてCiccarelli-Frostの仮説が妥当であることが示された。さらに、日本原子力研究所のParkらがおこなった水ジェットの潜り込み挙動の可視化実験をMPS法によって解析し、潜り込み深さなどが実験と良く一致した。これによってMPS法による溶融物細粒化のシミュレーションの妥当性が確かめられた。さらに、溶融物液滴細粒化の3次元解析をおこない、Ciccarelli-FrostのX線ラジオグラフィによる写真と一致する結果が得られ、3次元体系においてもCiccarelli-Frostの仮説が細粒化過程として妥当であると結論した。現在は、上記の細粒化機構による発生機械エネルギーの評価のため、圧力波伝播解析コードを開発している。

粒子法による溶融炉心-コンクリート相互作用の解析

松浦 正治, 越塚 誠一, 岡 芳明

 原子炉のシビアアクシデントでは、溶融炉心が格納容器内のコンクリート床上に落下すると、コンクリートが高温の溶融炉心によって熱分解すると考えられている。コンクリートは熱分解すると炭酸ガスなどの非凝縮性ガスが発生するので、これを停止させなければやがて格納容器が破損する。平成10年度はステンレスを溶融物に用いたSWISS-2実験の解析をおこない、溶融物プール上面での安定クラストの形成が計算結果においても確認され、コンクリートの侵食速度や冷却水への熱流束が実験と良く一致した。平成11年度は溶融炉心模擬物質(コリウム)を用いたMACE-M0実験の解析をおこなった。コリウムは融点が高いため、溶融物プール上面だけでなく、側面や下面にもクラストが形成される。そのため、SWISS-2実験と比較してコンクリートの侵食速度は遅くなる。さらに、両側面を周期境界として無限大体系の解析をおこなった。コンクリート分解ガスによりクラストが割れることを想定すると、比重の重いクラストの破片は側壁による支えが無いために溶融物プールに沈みこみ、比較的長時間、高い除熱を維持できることが分かった。ただ、本解析がx-y2次元であるので、3次元性が考慮されていないという問題がある。また、最終的に溶融炉心が冷却可能であるかどうかを判断するためには、溶融炉心が細粒化して固化し、デブリベッドに変化する過程を解析する必要がある。

粒子法による圧力容器内炉心保持の解析

野村 克也, 越塚 誠一, 岡 芳明

米国スリーマイル島の原子力発電所の事故では、溶融炉心の一部が圧力容器下部ヘッドに移行していたが、そこで冷却され、圧力容器の破損にまで至らなかった。溶融炉心が圧力容器下部ヘッド内で凝固すると、熱収縮のためにヒビ割れが形成され、そこに冷却水が浸透して溶融炉心の冷却が達成されたと考えられている。そこで本研究では、溶融炉心が下部ヘッドに落下する際の、溶融物液滴の分裂や凝固の過程のシミュレーションをおこない、溶融物が落下後どのような形状になるのかを調べる。平成11年度は、液-液系において液滴がどのように分裂するかをMPS法によって解析し、ウェーバー数に従って分裂様式が異なることを示した。今後は、気-液系での分裂過程、沸騰を伴う系での分裂過程、と研究を進めていく予定である。

粒子法による液体ナトリウム漏洩燃焼事故の解析

越塚 誠一, 池田 博和, 岡 芳明

 高速増殖炉「もんじゅ」で発生した2次系の液体ナトリウム漏洩燃焼事故では、比較的少量のナトリウムが2次系配管より漏洩し、配管の直下にあった空調ダクトに衝突して飛散し、床ライナー上に落下した。同時に、ナトリウムは空気や湿分と化学反応を生じるため、極めて複雑な現象となる。安全上は床ライナーの温度が重要であり、これを予測することが解析に求められている。そこで、粒子法を用いてこの複雑現象の予測を試みる。平成11年度は解析に必要な基礎研究として、表面張力の計算モデルの開発をおこなった。粒子数密度を用いることで、液面形状を描くことなく表面張力を計算することができ、界面の大変形を扱える粒子法の特徴を損なうことがない。本モデルをエタノール液滴の振動に適用し、振動周期について解析解との良い一致が得られた。また、本モデルを用いて液体の広がりの解析をおこなったところ、ある程度床面上に薄く広がると、表面張力によって複数の液滴に急速に分裂することが分かった。

粒子モデルを用いた弾性、塑性および粘塑性の計算手法の開発

近澤 佳隆, 越塚 誠一, 岡 芳明

固体力学の分野でも、複雑形状や界面の大変形を扱うため、メッシュを必要としない計算手法の開発が望まれている。そこで、流体の問題にこれまで適用してきたMPS法を固体力学にも適用し、平成10年度までに薄肉弾性体および厚肉弾性体の粒子計算モデルを開発した。平成11年度は、厚肉弾性体と流体との相互作用の解析、および、大きさの異なる粒子を用いた空間解像度の制御方法の開発をおこなった。厚肉弾性体-流体相互作用としては、波を受ける海岸構造物を解析し、波の衝突と海岸構造物内部の変位が粒子法によって同時に計算できることを示した。さらに、粒子の大きさを変えられるように計算モデルを拡張し、応力集中問題でその有効性を示した。現在は、大変形を伴う塑性および粘塑性の計算モデルの開発をおこなっている。

MPS-MAFL法による核沸騰の数値シミュレーション

Yoon Hang Young, Heo Sun, 越塚 誠一, 岡 芳明

MPS-MAFL法は粒子法であるMPS法に、格子生成を必要としない移流スキームであるMAFL(Meshless Advection using Flow-directional Local-grid)法を組み合わ せたもので、任意ラグランジュ-オイラー系の計算が可能である。MPS-MAFL法によって、界面の大変形を扱いつつ、局所的な空間解像度の調節ができる。MPS-MAFL法を用いてHan-Griffithによるサブクール沸騰の実験の解析をおこなった。加熱壁上での気泡の成長速度や、気泡の離脱半径は実験と良く一致した。さらに、計算結果から伝熱量を評価したところ、これも実験と良く一致した。伝熱機構として、対流、熱伝導、潜熱の3種類に分割して評価したところ、対流の寄与が80%以上であり最も支配的であることがわかった。以上より、核沸騰の直接シミュレーションが本研究によって初めて成功したと結論できる。今後は過渡沸騰現象や膜沸騰現象を対象として研究を進め、沸騰遷移を予測できるような直接シミュレーション技術の確立を目指す。


koshi@tokai.t.u-tokyo.ac.jp