1 はじめに

 研究炉は、ウランの核分裂機構について 教育・研究する道具 であるとともに、大量に発生する 中性子を利用する装置 でもある。( イラスト があります)

 教育の道具として研究炉を使うことは日本では忘れかけたかのようになっているが、電力の多くの部分を原子力発電でまかなおうとする社会(原子力依存社会)では、原子力技術の一層の開発と安全確保のために 人材育成 が最大の関心事でなくてはならない。

 中性子源としての研究炉の重要性は良く認識されており、日本でもJRR-3Mが良質の中性子ビームを供給して、世界的に勝れた研究の場となっている。しかし全体としては 中性子利用の需要 をまかないきれていないだけでなく、むしろ状況は悪くなってきている。

 安全でかつ使いやすい研究炉として定評のある武蔵工業大学炉や立教大学炉(いずれもTRIGA型で100kW)は、運転を継続していくことが極めて困難になりつつある。前者はプールの水漏れ以来、社会的な受容性の壁を乗り越えられないまま10年も経過している。後者は年間2億円近くかかる維持費が私大の経営を圧迫し、定年退職する職員の補充が行われないのを機会に2000年3月を最後に共同利用運転を停止することになった。当面如何に日本原子力研究所の研究炉が健在とは云え、小型炉が無くなっていくことは、教育及び手軽な中性子利用の部分で破壊的な損失となるだろう。近い将来研究炉の基数が減って中性子利用に穴が空くことを「 ニュートロン・ギャップ 」と云っているが、それは日本でいち早く訪れようとしている。今浮上している大規模な加速器を用いた中性子源を建設する計画は、ニュートロン・ギャップの回避策として有効と考えられているのかもしれない。しかしよく考えてみると、加速器中性子源では、はじめに述べた意味での原子力社会を支える教育は出来ない。更に実を云うと、加速器によって発生する中性子はパルスの時間の中及び限られた空間の中だけで強度が大きいだけであって、時間平均及び空間平均の中性子強度では原子炉に敵わないのである。加速器のビームの安定性も原子炉に比べればまだ格段に低い。

 研究炉の重要性は今一度見直されなければならないだろう。

 (次は第2節です