4 日本の研究炉

 さて以上のような利用において、日本の研究炉はどのような状況にあるのかを 図6 によって示す。

既に述べたように日本には共同利用されている研究炉は8基ある。それらは50MWから1Wまでの出力に分布しているが、出力と装備によってそれぞれ持ち分がある。教育の目的には小型炉が良い。1Wと出力の小さな研究炉は教育が主目的だし、武蔵工業大炉・立教大炉はこれまで大いに教育に役立てられてきた。残念ながらこれらの研究炉を用いた教育を支える制度と資金がこれまであまりなかった。しかし何度も指摘するようだが、研究炉を用いた教育は今後ますます重要である。

試験照射、RI生産、ビーム利用研究は大型炉で行われる。ビーム利用研究はJRR-3Mが中心であるが、中性子散乱、即発γ線分析、その他の利用で既にビームタイムが不足している。またMo-99生産やシリコンドーピングの需要に対応できていない。

照射利用研究には巾があるが、放射化分析やフィッション・アルファ・トラック法などは100kW程度の研究炉の方が大型炉よりも好まれて使われている。小さな炉の方が小回りが利いて、試料の取り扱いが容易であること、臨機応変の実験計画の変更も自在であることなど使い勝手の特徴だけでなく、大きすぎる中性子束は困ることもあるのである。JRR-4やJRR-3Mの気送管の熱中性子束は約 5x1013n/cm2sであるが、100kW炉のそれは2x1012n/cm2sの程度である。 この一桁以上の中性子束の違いは分析屋さんにとっては極めて大きな違いである。前者では放射化が強すぎてバックグラウンドが高く、ある程度放射能を冷却しないと測定できないの、で時間がかかる、冷却を待っている内に短寿命の核種は崩壊してなくなってしまう・・・などの不都合が発生する。それでは試料の量を減らせば良いかというと、例えば土壌試料の一粒を測定した結果は土壌全体の性質を代表しなくなるという問題が出てくる。100kW級の研究炉の価値は決して無視できない。

 

 ところで、立教炉と武蔵工大炉は運転継続が困難になっている。前者は研究炉を維持・管理する経費が私大の経済を著しく圧迫しているためである。後者では、10年前に起こったプールの水漏れ以後、修復可能であるにもかかわらず、周辺の住民の同意が得られないためである。( 参考説明 あり)これらは表向きの事情は異なるが、いずれも社会全体に拡がっている原子力低迷の気分が背景にある。しかし、この2つの研究炉が抜け落ちた状態を図6によって想像してみると良い。教育と照射利用研究の部分がポッカリと抜け落ちてしまう(東大炉、近畿大炉で教育出来ないことは無いがやや役不足である)。これは極めて由々しいことと云わざるを得ない。

 日本の原子力は多くの面で不幸な背景を背負っている。原子力開発の点で最も不幸であったのは、1954年に原子力予算が突如国会に提出された時の、政府と学者の抗争ともいうべき混乱の中で、科学技術庁と文部省の乖離が生じてしまったことであろう。以来、大学の原子力研究に関わる事柄は科学技術庁の責任範囲には無い状態が続いてきた。また、文部省と私学の関係の問題も別途存在する。従って図6に示されている私大炉の困難の問題は、二重の盲点の中にある問題なのである。たまたま省庁再編成が進められようとしているが、この問題はその中で解決されることが大いに期待される。このような折だからこそ、研究炉に関する問題も声を大にして云っておかなくてはならないと思うのである。

 

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